日恵装飾でのCompiere利用風景
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本社から離れた店舗で使用するために開発したCompiereのWeb版画面
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日恵装飾向けにカスタマイズしたCompiereの画面
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日恵装飾 営業企画室長 山口健氏
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Compiereの日本商習慣対応版を公開しているアルマス 代表取締役 ジリムト氏。モンゴル出身で日本で起業した
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 「同業他社での事例の半額。非常に安くできた。オーダーカーテンは特殊な要件の多い複雑な業務だが,うまくカスタマイズできた」---日恵装飾 営業企画室長 山口健氏は,7月1日から実稼働を始めた,オープンソースERPの「Compiere(コンピエール)」を採用した新基幹システムをこう評価する。OSなどの基本ソフトからミドルウエア,アプリケーションと上位のレイヤーに拡大してきたオープンソースの波が,ついに業務アプリケーションの“最高峰”であるERPへと到達した。

JavaベースのオープンソースERP「Compiere」

 日恵装飾は,オーダーカーテンや内装リフォームを手がける企業。日本だけでなくヨーロッパなど38カ国にカーテンを輸出しているほか,マルイが販売するオーダーカーテンの8~9割をOEMで受注している。年商は約6億円。直営店も代官山などに3店舗展開している。

 同社は従来,データベース・ソフト「4D」で構築した受発注・在庫管理システムを使用していたが,2年ほど前にシステム刷新の検討を始めた。

 インテグレータの選定は,カーテン業界のシステムに関する経験を最も重視した。前述のように「オーダーカーテンは特殊な要件の多い複雑な業務」(山口氏)だからだ。生地やサイズ,縫製の仕方など組み合わせは数千種類,価格の算出方法も複雑になる。また,カーテンを提携先の縫製工場に発注した際,どの時点で売り上げになるかなど,業界慣行も特有のものが多い。インターネットなどで探し,カーテン業界の経験を持つインテグレータとして辿り着いたのがアルマスだった。

 アルマスは,モンゴル出身のジリムト氏が設立した企業である。ジリムト氏は日本に留学し,日本のインテグレータでシステム構築を経験した後独立し,モンゴル出身の技術者らとアルマスを設立した。日本で業務システムの構築を手がけるうち,オープンソースERPの「Compiere」の存在を知った。

 Compiereは米Compiere社が開発し,オープンソース・ソフトウエアとして配布しているERPソフトウエアである。販売管理,購買管理,材料管理,会計といったモジュールから成り,クライアントはJavaアプリケーションである。Compiereによれば累計で1200万件ダウンロードされており,海外ではすでに流通や製造,金融,医療,サービスなどさまざまな業種で導入実績があるという。当初データベースとしてはOracleのみサポートしていたが,現在ではPostgreSQLなどのオープンソースDBMSも利用できる。

 アルマスはCompiereの日本語化と日本の商習慣への対応を行い,自社の業務に使用するとともに,オープンソース・ソフトウエアとしてSourceForge.jpで公開している。

 アルマスはCompiereを利用したシステムを,日恵装飾に提案した。山口氏は「モンゴル人でありながらカーテン業界についての業務知識は豊富。実際に構築したシステムも見せてもらい,これなら大丈夫だと思い」し,アルマスに構築を依頼した。

画面の70%でカスタマイズ,費用は同業他社事例の半額

 構築にあたっては,日恵装飾の要望に合わせ,Compiereに大幅に手を入れた。「画面の約70%で何らかのカスタマイズを行った」(アルマス ジリムト氏)。コア部分も改造した。Compiereでは伝票の一覧と,個々の伝票の明細は別々のウインドウで表示されるが,アルマスでは伝票のヘッダーと明細が同じウインドウ内に表示されるようにした。また,本社から離れた店舗で使用するためにWeb版の受発注画面も作成した。これらの大幅なカスタマイズはソースコードが公開されているがゆえに,可能だったと言える。

 これだけのカスタマイズを行いなが構築費用は「非常に安かった」(日恵装飾 山口氏)。山口氏によれば,同業他社が同じようなシステムを導入した場合に比べ約半分のコストだったという。今回,日恵装飾ではCompiereの商用ライセンスを購入して利用している。料金は20クライアントで,Oracleのライセンスを含め年間76万円である。

 新システムは7月1日から実稼働に入った。しばらくは旧システムと並行して運用し,8月1日に完全に新システムへ切り替える。現時点での課題は「社内にサーバーを置いていた時は問題なかったが,データセンターに移しインターネットVPN経由で利用するようになったら,スクロールが遅くなる現象が起こるようになった」点だ。この課題についてはアルマスで対策を検討中だ。

 「安定性については今のところ問題はない。新システムでは6カ所の工場に分散した在庫を一元管理できるようになった」と山口氏は新システムを評価する。「受発注システムと会計システムが連動することで,売れ筋や地方ごとの傾向,顧客のプロフィールによる分析などが可能になる」(山口氏)と期待している。

 Compiereのような海外発のものだけではなく,日本発のオープンソースERPもまもなく登場する。