エンジニアの方々の中には,デザインに対して苦手意識を持っている人が少なからず居るのではないかと思う。例えば,業務アプリケーションのユーザー・インタフェース(UI)。これらはクライアント(発注者)の意見を聞きながら,最終的にはエンジニアが作成することが多い。ディスプレイに表示されたウィンドウ内には確かに,テキスト,入力欄,ボタンなどユーザーの目的を達成するのに必要なものはそろっている。しかし,ユーザーの立場から見て,画面の色,テキストのサイズや形状,ボタンや入力欄などの配置などに,デザイン性を感じることは多くないのではないだろうか。

 「アプリケーションのユーザーが目的を達成できれば十分ではないか」という意見はもっともだ。ただ,そうした風潮が最近変わりつつあるように感じる。あるデザイナによると,“Vistaショック”によって,UIのデザインに関心を持つエンジニアが増えつつあるようだと言うのだ。Vistaショックとは,わかりやすく言うと「Windows Vistaのような見栄えを持つOSの上では,あまりダサいUIのアプリケーションは作れない」と感じるようになることだそうだ。また,以前からデザイナの参加が常態化している企業のWebサイト制作でも,「リッチ・インターネット・アプリケーション(RIA)」に代表される,より良い見栄えや使いやすさを備えたUIが求められるようになり,デザインが一層重要になってきた。

デザインのセンスは一朝一夕には身に付かない

 とは言うものの,デザインのセンスは一朝一夕に身に付くものではない。別のデザイナは,「鍛えられたデザイナは,たとえるなら“絶対音感”のような感覚を持っている。例えば,A4サイズの紙上のバランスのよいところに直径数ミリの円を描けと言われれば,何回繰り返しても,ほとんど誤差なく同じところに円を描く」という。また,筆者があるイベントのチラシ作りを知り合いのデザイン経験者に依頼したところ,文字のサイズ,色,位置をはじめ,イラストやロゴの位置に,筆者としてはあり得ないほど細かく気を使うのに舌を巻いた経験がある。

 そこで,「餅は餅屋」というわけで,「エンジニアとデザイナのコラボレーション」という話になる。例えば,マイクロソフトが7月13日にリリースした,同社初のデザイン・ツール・スイート製品「Microsoft Expression Studio」は,同社が擁するエンジニア向けの開発ツール「Visual Studio」との連携による,エンジニアとデザイナのコラボレーションを売りの一つとしている。

 しかし,当然ながら,エンジニアとデザイナという専門性が高く,立場も違う者同士のコラボレーションは容易ではない。デザイナとプログラマの“コラボレーション・ユニット”でシステム開発などを請け負っている「PROJECT KySS」。そこでデザインを担当する薬師寺聖氏のコラムから,両者のコラボレーションの難しさを紹介した一節を以下に引用する。

 周りからは,息の合ったコンビだと思われているが,感性は180度違う。デザイナとプログラマはケンカするもの,と相場が決まっている。

「画面遷移図にないボタンが付いている!どうして勝手に付けるんだよ!?」
「ボタンクリックという手順をワンクッション挟んだほうが,処理が簡単だ」
「コードを端折る目的で,デザインを無視するなよ!ユーザーに不親切だろ」
「ボタン一つ追加したぐらいで,そう怒るなって。動けばいいだろ,動けば!」

とまあ,しょっちゅう口論をしている。1pxの微調整を「気にし過ぎ!」と言われた日には,「実録鬼プログラマ日記」を書いてやる!と息巻いてしまうが,その1pxのズレに気づかない感性の持ち主に,何を言っても始まらない。
ITpro連載「コラボレーションから始めよう! -- 第1回 デザイナ主導型プロジェクトのススメ」より

 アプリケーションの用途にもよるだろうが,システム開発においてはエンジニア,クライアント(発注者)という従来の組み合わせに加えて,「デザイナ」が登場する機会はこれからも多くなっていくだろう。この“第3の存在”とどのように付き合うのか,エンジニアの方々は今のうちから考えておいたほうが良いかもしれない。