6月28日,無線LANに関わる省令が公布され,これまでの20MHz幅に加え40MHz幅(デュアルチャネル)の無線LANが利用できるようになった。これにより,まだドラフトではあるがIEEE802.11nを利用することで,理論上300Mbps(データが2ストリームの場合)のデータ通信が可能になった。

 11nと言えば,元々実効速度で100Mbpsを超えることを目指した規格。11aや11gでは1つのチャネルに1本のデータストリームを送受信していたが,11nでは1つのチャネルに複数のストリーム(現状製品では2ストリーム)をやりとりすることで高速化を図った。利用する周波数帯は2.4GHz帯と5GHz帯。11nでは従来11aや11gで利用されてきた20MHz幅だけでなく,2チャネル分の40MHz幅で通信するモードも規格化が進んでいる。現在はドラフト版が公開されている。今回の省令で40MHz幅についても利用できるようになったわけだ。

 そこで,NEC/NECアクセステクニカとバッファローから登場した対応製品で,その実力をチェックした。

NECとバッファローから40MHz幅,ドラフト11n対応製品が登場

写真1●NEC/NECアクセステクニカの「AtermWR8400Nワイヤレスカードセット」
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 今回スループットを評価したのは,NEC/NECアクセステクニカの「AtermWR8400Nワイヤレスカードセット(写真1)と,バッファローの「WZR-AMPG300NH/P」(写真2)の2製品。まず,その2製品の概要を紹介しよう。

 NEC/NECアクセステクニカのAtermWR8400Nワイヤレスカードセットは,IEEE802.11a/11b/11g/Draft 11nに対応した無線LANルーター(AtermWR8400N)とPCカード子機(AtermWL300NC)のセットモデル。5GHz帯と2.4GHz帯を切り替えて利用するタイプで,5GHz帯の11aではW52(5.2GHz帯)とW53(5.3GHz帯)に加え,W56(5.6GHz帯)にも対応した初の製品だ。40MHz幅の無線LANとしては,11aの5.2GHz帯(W52)か2.4GHz帯で利用できる。有線LANは100BASE-TX対応となっている。

 バッファローのWZR-AMPG300NH/Pも,IEEE802.11a/11b/11g/Draft 11nに対応した無線LANルーター(WZR-AMPG300NH)とPCカード子機(WLI-CB-AMG300N)のセットモデル。こちらは,2.4GHz帯と5GHz帯を同時利用できるタイプで,5GHz帯の11aはW52(5.2GHz帯)とW53(5.3GHz帯)に対応する。40MHz幅の無線LANには,2.4GHz帯と,5.2GHz帯(W52)/5.3GHz帯(W53)で利用でき,2.4GHz帯,5GHzで同時にデュアルチャネルの無線LANを利用することも可能となっている。有線LANはギガビットイーサネットに対応する。

写真2●バッファローの「WZR-AMPG300NH/P」
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画面1●WZR-AMPG300NHの40MHz幅無線LAN用の設定画面
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 スペックで見ると,W53でもデュアルチャネル対応していることや,ギガビット対応であることからバッファローのWZR-AMPG300NH/Pの方がデュアルチャネル対応という点では優れている。ただ,実売価格は3万6800円とAtermWR8400Nワイヤレスカードセットの2万9800円よりも高くなっている。

スループットは100Mbps超と有線LAN並み

 それでは気になるスループットを見てみよう。測ったのは2階建ての家屋で,1階に2部屋,2階に2部屋が東西に並んでいる。1階の2部屋の間には廊下がある。1階西側の部屋にアクセスポイントを設置し,そのLANポートにサーバーとなるデスクトップPCを設置,ノートPCを各部屋に移動してスループットを測定した。

 測定したのは40MHz幅/Draft 11n,20MHz幅/Draft 11nの2通り。チャネルは11aのW52にある44チャネル(拡張チャネルは45)を利用した。参考として同じアクセスポイントに対し,ノートPCに内蔵の無線LAN機能を利用して11aで接続した場合のスループットも調べた(表1表2)。

 その結果,最もスループットが良かった数字は,WZR-AMPG300NH/Pでクライアントが同室の場合で107.4Mbps(同室の場合)。11nで目指した実効速度での100Mbps超えが,実製品で達成できたことになる。69.5Mbpsだった20MHz幅11nと比べると,53%もスループットが高まっており,帯域が2倍に広がった効果が現れている。

表1●NEC/NECアクセステクニカ「AtermWR8400N」の実効速度(単位はMbps)
無線LAN規格 無線LAN子機 1階西側
(アクセスポイントを設置)
1階東側 2階西側 2階東側
40MHz幅,Draft 11n AtermWL300NC 87.2 81.8 87.2 81.8
20MHz幅,Draft 11n AtermWL300NC 72.5 75.1 73.8 60.4
11a(参考) ノートPC内蔵無線LAN 20.1 20.1 20.1 18.8

表2●バッファロー「WZR-AMPG300NH」の実効速度(単位はMbps)
無線LAN規格 無線LAN子機 1階西側
(アクセスポイントを設置)
1階東側 2階西側 2階東側
40MHz幅,Draft 11n WLI-CB-AMG300N 107.4 98.0 103.8 70.2
20MHz幅,Draft 11n WLI-CB-AMG300N 69.5 67.7 67.2 45.9
11a(参考) ノートPC内蔵無線LAN 14.2 13.6 13.4 13.2

 AtermWR8400Nワイヤレスカードセットは,最高でも87.2Mbpsとバッファローの製品には及ばない結果となった。有線LANが100BASE-TX対応であることが一因ではあるが,20MHz幅の結果はバッファローの製品を上回っており,測定環境との相性が悪かった部分があるのかもしれない。それでも20MHz幅の11nよりはスループットが高くなっている。

 最高性能はWZR-AMPG300NH/Pに譲ったAtermWR8400Nワイヤレスカードセットだが,WZR-AMPG300NH/Pよりも優れる点も見られた。それは,測定した木造2階建ての環境では,最も離れた2階の対角にある東側の部屋からのアクセスでも速度低下が少なかったこと。どの部屋からアクセスしても80Mbps以上のスループットが得られたのは,利用者にとって心強いだろう。

 これに対し,WZR-AMPG300NH/Pは,2階東側の部屋からのアクセス時に34%もスループットが低下した。気になる結果ではあるが,それでも70Mbpsを超えるスループットが得られているので,Draft 11nに非対応の無線LANと比べれば圧倒的に高速だ。

 今回は,登場したばかりの製品を,短期間にスループットを測定したため,十分に性能を引き出せていない結果が含まれる可能性はある。それでも,条件によって100Mbpsを超えるパフォーマンスが得られたのは,無線LANで有線LAN並みのスループットが得られる時代に入ったことを感じさせる。

 Draft 11nの規格では,現在製品化されている2ストリームよりも多い,3ストリームや4ストリームも用意されている。通信速度は3ストリームで450Mbps,4ストリームで600Mbps(ともに40MHz幅での理論値)となっており,さらなる高速化も期待される。


●測定方法について
 
測定に利用したツール Iperf
利用したPC(サーバー) Pentium 4(3.2GHz),1GBメモリー,1000BASE-T対応Ethernetを搭載したデスクトップPC。OSはWindows XP Professional
利用したPC(クライアント) Core Solo U1300,1GBメモリーを搭載したノートPC(dynabook SS SX/490NK)。OSはWindows XP Professional
 無線LANルーターのLAN側にサーバーとなるデスクトップPCを接続し,木造2階建て家屋の各部屋からのスループットをノートPCから無線LANで接続して測定した。間取りは東西に1階2部屋,2階2部屋あり,1階西側の部屋にアクセスポイントを設置した。なお,1階の2部屋の間には廊下があるため壁を2枚隔てた状態となっている。無線LANルーターの動作モードはアクセスポイントモード。測定時に利用したチャネルはW52の44チャネル(デュアルチャネルの場合は44と45チャネル)。AESによる暗号化を行う設定とした。参考として示した11aの通信速度は,ノートPC(dynabook SS SX/490NK)に内蔵の無線LANからアクセスした場合の数値。