2007年4月末から,NTTグループのNGN(次世代ネットワーク)のフィールド・トライアルを一般家庭でも利用できるようになった。首都圏と大阪市に住む約500世帯をモニターにした試験サービスが始まったのだ。これをもって2006年12月に始まったNTTのNGNフィールド・トライアルは最終の第3フェーズに突入した。

 NTTグループは2007年度末に,NGNの商用サービスを開始する計画だ。その際には,現在モニター宅で検証しているサービスの一部が提供される可能性がある。モニター宅でのトライアルに,未来のネットワーク・サービスの一端が見えるといっても過言ではない。

 日経コミュニケーションは,トライアルのモニターとなったユーザー(仮に「P氏」とする)を探し出し取材を敢行,トライアル用の端末やサービスに触れる機会を得た。提供されているサービスは,テレビ電話や高音質IP電話を使った「電話」,ハイビジョン映像などテレビ向けの「映像配信」,パソコン向けの「ブロードバンド」の三つに大別できる。個々サービスの詳細は,今日からITproで特集した「NGNトライアル,一般家庭へ」をご覧いただきたい。

 さてP氏の自宅で取材を進めるうち筆者には,NGNが今後一般家庭に拡大していく上での課題が見えてきた。それはNGNから家庭の端末までをつなぐ「アクセス回線」と「家庭内回線」にかかわる問題だ。

いずれ発生するフレッツ網からNGNへの切り替え

 まずアクセス回線から。家庭向けのトライアルで,NTTはモニター宅までNGN専用の光ファイバを1本引き直した。従来の光ファイバからフレッツ網経由でインターネット接続事業者(ISP)につながる経路とは別に,NGN専用の光ファイバからNGN網を経由してISPにつながる構成だ。P氏の自宅を取材した際も,以前から契約していたBフレッツ用の回線とは別に,電柱からワイヤーを伝わって新しい光ファイバがP氏宅へ引かれていた。

 ただしこれはNGNトライアルに限った話である。NGN商用化後は,光ファイバの既存ユーザーにもう1本NGN専用の光ファイバを引くのは非現実的だ。NTT東西の光ファイバは,NGNを商用化する予定の2007年度末で約1000万回線になるという。これらのユーザーに再度回線を引き直していたら,2010年までに光ファイバを3000万回線にするという目標の達成が難しくなる。

 その一方でNTT持ち株会社は,NGNを現行のフレッツ網とは論理的に別に構築する考えを明らかにしている。「フレッツ網は建て増しを繰り返したネットワークだった。NGNはあらかじめ2010年に3000万ユーザーが利用する前提で設計している」。こうなるとNGNを利用する場合には,既存の光ファイバ回線はそのままで,中継網をフレッツ網からNGNに切り替えるという作業が必要になる。

 その際に鍵を握るのが光ファイバ回線につながる「ONU」(回線終端装置)である。現在NTTの光ファイバ・サービスで使われているONUは,ファームウエアをリモートで更新できるタイプだという。フレッツ網からNGNに切り替える際にユーザーに負担がかからないようにするには,ファームウエアをリモート更新で切り替える仕組みなどが不可欠となるのだ。

 この問題は,光ファイバを引くと同時にNGNに加入するユーザーが増えれば解決していくものかもしれない。ただ,既に光ファイバを利用しているユーザーは,高速アクセスに関心があり,NGNの利用を先導する立場にある。そのためにも,既存の光ユーザーをどのように切り替えていくかがNGNを展開するうえで重要になる。

テレビまでの回線は誰が引く?

 もう一つ課題になるのは,NGNから各機器まで宅内に引かれる回線だ。NGNのサービスは,電話やパソコンなどの通信端末に加えて,STB(セットトップ・ボックス)経由のテレビにまで広がる。それぞれの機器はHGW(ホーム・ゲートウエイ)から,イーサネットで接続する構成となる。

 P氏の場合,NGNを利用できるまでにかかった工事時間は2時間半。NTT東日本から委託を受けた作業員が6人がかりで作業したという。このうち屋外の回線設置は50分で,残りは屋内の作業時間だった。

 P氏の部屋には,窓からONUまで引かれた光ファイバに加えて,パソコンの近くに置いたHGWからSTBやテレビ電話まで,それぞれ数メートルにわたってイーサネットが引き回された。その後も作業員が,アドレスの設定のほかテレビに映像が正常に映るかなどの設定に時間を費やした。

 NGNが商用化された後は,NGNのサービス範囲は原則「ONUまで」になるという。トライアルで作業員が担当した「家庭内の回線を引き,各端末を設定する」という作業は,いずれユーザーにゆだねられる可能性があるのだ。作業員が時間をかけて設定したこれだけの作業を自分自身でできるユーザーは,よほどのつわものと言える。

 むろんトライアルと同様に,各端末までの回線設置や設定までをユーザーがNTTに任せることも可能になるだろう。ただしその場合,この作業にかかる費用を誰が負担するのか,という問題が浮上する。ノウハウの蓄積や作業の効率化でトライアルよりも作業時間は短縮されるとしても,この費用をユーザーが負担するのでは,NGNへの切り替えの障壁にもなりかねない。

 テレビなど様々な端末をネットワークにつなぎ,その領域を拡大するNGN。将来は電話網を代替し,日本国中の家庭へと広がっていく。その半面,接続性を確保すべき端末の種類や台数が増え,利用するユーザーも多様化する。

 このときNGNの利用を容易に始められるようにするには,ユーザー宅での作業を短縮するための技術や方策が不可欠になる。数年先までの人員やコストにかかわるだけに,この問題を早急に検討する必要がありそうだ。