先日,地上デジタル放送を録画できるハードディスク・レコーダを購入した。電源を入れしばらく放置しておくと,時計が正確な時刻を表示し始めた。放送波に正確な時刻情報が組み込まれているからだ。その一方で,デジタル放送では,信号処理の時間がかかるため,7時のニュースが7時きっかりには始まらない。「×時をお知らせします」という時報も,放送では見かけなくなってしまった。

 時刻合わせの必要がなくなったのは,ハードディスク・レコーダだけではない。記者が利用している電波時計も,標準電波で送られてくる時刻にもとづいて自動的に時刻を調整してくれる。しかし,電波時計ではない普通の時計を使っている人たちは,時刻合わせをどうしているのだろうか。周囲に聞いたところ,きちょうめんな人はNTTの時報サービスで合わせているようだ。その一方で,1~2分程度の違いなら気にしない,という人もかなりいた。

設定時刻のズレはストリーミングや認証で問題になる

 一般的な日常生活なら,1~2分程度の誤差で困ることは少ないだろう。だが,パソコンの設定時刻だけは正確に合わせておきたい。返信メールの方がオリジナルのメールより時刻が早く,メール・ボックスの中身が紛らわしくなるのは,まだかわいい方。ストリーミングや認証などのアプリケーションでは,サーバーとクライアントの時刻が大きくずれていると,利用に影響が出てしまうケースも多い。

 パソコンの利用歴が長いユーザーにとって,パソコンが内蔵する時計は不正確な時計の代名詞だった。一日に数分の進みや遅れは当たり前。100円ショップで買った時計をパソコンに張り付けておいて,それを見たほうがずっとマシとまで言われていたほどだ。

 パソコンの内蔵時計が不正確だったのは,その水晶発振子が常温(20度前後)での利用を想定していたためだ。CPUの高速化が進み発熱量が増した結果,パソコン内部の温度は室温より10度や20度高くなることも珍しくない。そのため水晶発振子が正確に動作できず,時計も不正確になってしまったというわけだ。

 しかし,パソコンのインターネット常時接続が当たり前になったことで,このあたりの事情は変わりつつある。WindowsやMacintoshでは,定期的にNTP(Network Time Protocol)サーバーに接続して時刻を合わせる機能をOSが備えている。もはや,パソコンの時計はたまにしか時刻合わせしない腕時計や置き時計よりずっと正確になっているはずだ。

 ところが,現実は必ずしもそうなってはいない。

 まずセキュリティ意識の高まりで,セキュリティ・ソフトやファイアウォールなどが,NTPで利用する123番ポートを閉じているケースがある。これはセキュリティ・ソフトなどの設定を修正しなければならない。修正が不可能なら,残念だがあきらめるしかない。

 時計の時刻が合わない別の理由としては,NTPサーバーがビジー状態のためリクエストに応じられないことがある。Windows XPでのNTPサーバーの初期設定は,「time.windows.com」である。ドメイン名から分かる通り,米Microsoftが設置したNTPサーバーだ。世界中のWindows XPマシンからのリクエストがこのtime.windows.comに集中するのだから,ビジー状態が多くなるのも当然と言えるだろう。Windowsの初期設定では,1週間に1回しか時刻合わせをしない。このため,一度失敗すると,次の時刻合わせは1週間後になる。運が悪ければ,何週間にもわたって時間合わせできないことになってしまう。

 この“ビジー状態問題”は,利用するNTPサーバーを変更することで解決できる。Windows XPの場合,コントロールパネルの「日付と時刻」でNTPサーバーを変更できる。利用しているISPがNTPサーバーを運用しているなら,そちらに切り替えるのが遅延も少なく正確になる。これ以外でも,日本国内のユーザーなら,独立行政法人である情報通信研究機構の「ntp.nict.jp」やIX(インターネットエクスチェンジ)事業を手がけるインターネットマルチフィードの「ntp.jst.mfeed.ad.jp」は,遅延が少なく正確である。ただし,企業のシステム管理者が自社のパソコンの設定を一斉に変更する場合などは,NTPサーバーの管理者に事前に相談しておきたい。これでパソコンの時計は正確な時刻を刻み続けるはずだ。