NGN(次世代ネットワーク)の商用サービスが今年度中にも始まる。それに向けて,着々と準備が進められている。2007年1月からベンダーが参加して実証実験であるフィールドトライアルが始まり,4月からは一般ユーザーから募ったモニターもこのトライアルに参加している。しかし,NGNはまだわかりにくく,遠い存在である。やがて我々一般ユーザーも利用するサービスのはずなのだが・・・。

 NGNは,インターネットで使うIPをベースに構築する次世代基幹ネットワーク。IP電話で利用するSIP(Session Initiation Protocol)を使い,IPネットワーク上で音声やデータ,映像などのマルチメディア・サービスを提供する。エンド・ツー・エンドでQoS(サービス品質)制御を提供し,セキュリティも強化する。また,固定通信網と移動通信網を統合したシームレスなサービスを提供する仕組みを用意する。いわゆるFMC(Fixed Mobile Convergence)はその一例である。さらに,ネットワークの機能を利用するためのインタフェースを公開し,ほかのプロバイダやインテグレータがサービスなどを作りやすいのも特徴である。

 このようなネットワークの機能や特徴を聞いてもよくわからない。そのため,NTTやベンダーがNGNを利用したサービスやアプリケーションを披露するためにショールームを開設している。

 先日,NECが5月31日にオープンしたNGNのショールームを見る機会があった。NTTのNGNフィールドトライアル網に接続し,企業向けの「ユビキタスデスクサービス」「企業内データセンタ活用NGN対応サービス」「放送局向け映像伝送サービス」とコンシューマ向けの「高品位トリプルプレイサービス」「パソコン向け高画質映像配信実験」の5種類のサービス/アプリケーションを実演する。

 たとえば高品位トリプルプレイサービスでは,映像/音声,Webを活用して友人と旅行の予約をするデモを実施。遠方の友人と高品質のテレビ電話で会話をしながら旅行の相談。相談中に,沖縄の観光スポットのハイビジョン映像をチェック。次に,テレビ電話で旅行代理店の担当者とも接続し,ツアーを申し込む様子を実演した(写真1)。

写真1●高品位トリプルプレイサービスを使い,映像/音声,Webを活用して友人と旅行の予約
写真1●高品位トリプルプレイサービスを使い,映像/音声,Webを活用して友人と旅行の予約
セットトップ・ボックスにモニターを接続し,リモコンで操作する。

 デモからは,NGNは「高品質で安定した映像を伝送できるインターネット」と見える。それはそれで特に否定する必要はない。ネットワークが高速化し,品質が向上することはだれもが歓迎するだろう。実際,インターネットのトラフィックは年々増えている。各インターネット・プロバイダのネットワーク間を接続するIX(Internet Exchange)のトラフィックを見れば、明らかである(図1)。ADSLサービスが普及し始めた2001年以降,トラフィックが急速に増えている。ADSLやFTTHによって,インターネットに常時接続し,映像などの大容量のコンテンツをダウンロードするようになってきた状況を如実に表している。だからといって,現行のインターネットではダメで,NGNが必須ということにはならない。

図1●国内主要IXでのトラフィックの推移(出典:総務省の情報通信白書2006)
日本インターネットエクスチェンジのJPIX(Japan Internet eXchange),インターネットマルチフィードのJPNAP(Japan Network Access Point),WIDE ProjectのNSPIXP(Network Service Provider Internet eXchange Point)のIXを流れるトラフィックの合計。

■変更履歴
図1のグラフで、「1日のピークトラヒックの月平均」と「1日の平均トラヒックの月平均」のデータ名が逆でした。お詫びして訂正します。グラフは修正済みです。 [2007/06/06 17:33]

家計から今以上の通信費支出が望めるのか

 では,NGNサービスがスタートし利用しようとしたとき,一般家庭のユーザーはその料金を払えるのか。逆に払えるユーザーはどのくらいいるのだろうか--。

 現在,Bフレッツを利用してインターネット接続をするには,プロバイダ料金も含めて月額7000円弱が必要になる。NGNのサービス・メニューや料金は未定であるが,当然,Bフレッツよりも料金は高くなるとみられる。

 総務省の家計調査によると,消費支出自体は横ばいであるものの,携帯電話やインターネット接続などに対する支出は伸びている(図2)。しかし,インターネット接続料の金額自体は,全世帯平均月額1500円前後である。インターネットの世帯普及率が90%弱であることを考えると,インターネット・ユーザーの支出の平均は月額1700円弱程度という計算になる。

図2●世帯あたりの支出(月額)
総務省の家計調査(農林漁家世帯を除く)のデータをもとに作成。

 このような状況から,当面NGNサービスのターゲットとなりうるのは現在のブロードバンド・ユーザーが中心。では,ブロードバンド・ユーザーは現行サービスの速度や品質を不満に思っているのだろうか。

 インプレスの「インターネット白書2006」によると,ダイヤル回線でインターネットを利用しているユーザーのうち64.4%もが,回線品質・スピードを「やや不満」「不満」に思っている。しかし,FTTH,DSL,CATVの場合,それぞれ12.2%,25.7%,14.0%にとどまる。FTTHユーザーの9割近くは現状のネットワークの品質,スピードにほとんど不満がないのである。現状に不満がないと,NGNサービスによほど割安感がない限り,乗り換えない。

 それに,NGNにもっとも近いユーザーと思われるFTTHユーザーはまだ少ない。総務省の調査をもとに計算すると,2006年12月時点で,FTTHやDSL,CATVなどのブロードバンドの世帯普及率は50.5%となっているものの,FTTHの世帯普及率は15.6%に過ぎない。

 やはり,NGNはインターネットの延長線上,つまり,高品質,高速なインターネットととらえたのでは「利用したい」という気持ちが沸いてこない。従来のインターネットとはまったく異なる新たなサービスやアプリケーションに期待するしかないということになる。そうすれば,携帯電話のように,家計から新たな支出が望める可能性はある。

 とはいえ,消費支出が横ばいである以上,通信費の支出を期待するのはなかなか難しい。そのため,従来と異なる方法でNGNサービスの料金を徴収することも考える必要が出てくるだろう。たとえば,サービス/コンテンツを提供する側が通信料の一部を負担し,それをサービスなどの料金のなかでユーザーから徴収する方法である。広告収入を当てるという手もある。3年後にはNGNサービスを利用しているのだろうか・・・。