コンテンツ・ポータルサイト運営協議会は2007年6月上旬,日本発コンテンツの二次利用を促進するための「コンテンツ・ポータルサイト」を開設する。日本で作られた映画,テレビ番組,アニメ,音楽,文芸作品などに関する基本情報を提供するサイトであり,コンテンツの二次利用を考えている国内外の企業は,利用許諾を得るための問い合わせ先をここで参照できるようになる。

 コンテンツ・ポータルサイトは,もともと日本経団連のエンターテインメント・コンテンツ産業部会が,コンテンツ産業の振興を目的に検討を重ねてきたものである。その話し合いの結果を受けて,2006年8月にコンテンツ・ポータルサイト運営協議会が発足。NPO法人(特定非営利活動法人)の映像産業振興機構が,同協議会からの業務委託を受けてサイトの構築・運営を手がける。

 6月上旬の開設当初から,サイトには「数百万以上のコンテンツの基本情報が登録される」(映像産業振興機構の末永昌樹事業部事業室チーフプロデューサー)。コンテンツの基本情報は,NHKや民放5社を含むテレビ局,さらにレコード会社などのコンテンツホルダーが提供する。コンテンツホルダーとコンテンツ利用企業を結びつけることで,「(日本製)コンテンツの認知度向上・利用機会の拡大と,これを通じた日本のコンテンツビジネス発展」(同協議会の発表資料より抜粋)に向けた役割を担うことになる。

網羅的な権利者データベースの構築は不可能

 記者はここ何回かの記者の眼で,著作権保護期間の延長問題を取り上げてきた。この問題は,著作権の保護期間を作者の死後50年から欧米並みの死後70年に延長すべきかどうかというもので,賛成派と反対派がそれぞれの立場から「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」の公開フォーラムや文化庁の文化審議会などで意見を表明してきた。双方の主張については,本ページ下に表示する関連記事リンクを参照していただきたいのだが,意見もほぼ出尽くしたようで,今後は両陣営の政治力や世論の動向が延長の是非を左右することになる。

 この一連の議論の中で,記者が興味を持ったトピックの1つに「権利者データベース」がある。延長反対派の主張の1つに,「古いコンテンツには,権利者が分からないものが多い。保護期間を延長したら権利者の分からないコンテンツがさらに増えて,利用許諾が取りにくくなってしまう」というものがある。これに対する延長賛成派の反論は,「権利者データベースを構築して,利用許諾や報酬の支払いが円滑に進むようにする」というものだ。

 実際,さまざまな権利者団体が個別に権利者データベースの構築を手がけている。例えば,JASRAC(日本音楽著作権協会)はすでに大規模な楽曲のデータベースを稼働させている。処理に手間がかかる俳優,演奏家などの著作隣接権についても,実演家著作隣接権センターが10年以上前から利用報酬を分配するための権利者データベースを構築している。

 こうした動きに対して,延長反対派からは「権利者団体のデータベースが管理するコンテンツは,全体から見ればほんの一部であり,網羅的なデータベースの構築は不可能」という疑念が出されている。例えば,日本文藝家協会は「著作権管理委託者」の作品データベースを構築しているが,委託者の数はおよそ2800人に過ぎない。だが,何らかの形で本を出した著作者に限っても,少なくとも数十万人には達するはずだ。

 「網羅的」の定義にもよるが,世にあるすべてのコンテンツの権利者情報を横断的なデータベースに記録することは,延長反対派の主張通り,不可能だろう。そもそも,二次利用による収入を見込めないコンテンツの権利者には,権利情報をデータベースに登録しようというインセンティブが働かない。古いコンテンツになると,権利者自身が自分のことを権利者だと知らない可能性もある。

 現実的に考えれば,まずは二次利用ビジネスでの収入が見込めるメジャーなコンテンツから,横断的なポータルサイトや権利者データベースへの登録を先行させるしかない。そこで枠組みができれば,マイナーなコンテンツについても,基本情報の登録が進んでいくのではないだろうか。

 冒頭のコンテンツ・ポータルサイトに話を戻すと,同サイトにコンテンツの基本情報を登録するには,一口10万円の年会費を支払って協議会の会員となる必要がある。したがって,登録対象のコンテンツは当面,年会費を負担に感じないレコード会社,映画会社などの営利組織,あるいは権利者団体が管理する作品に限定されるだろう。繰り返しになるが,コンテンツ・ポータルサイトの目的は「コンテンツビジネスの発展」であり,古いコンテンツの情報を含む網羅的な権利者データベースの構築ではない。その意味で,「保護期間が延長されると,利用許諾が得られにくい古い作品が増える」という問題を解決するものではない。

 それでも,こうしてコンテンツの二次利用を促進する枠組みを整備しておけば,権利者側に権利関係を整理・公開しようというインセンティブが働くことになる。少なくとも,商業ベースの二次利用が期待できるコンテンツや今後登場する新しいコンテンツについては,実用的かつ横断的な権利者データベースの整備に向けた,1つのきっかけになってくれるのではないだろうか。記者はそのように期待している。