「英会話を学びたいけど,時間がない」という声をよく聞く。英文の読み書きはそこそこできても,しゃべれないという人は多い。かといって,日々仕事をしていると,決まった時間に英会話教室に通うのはなかなか難しい。

 だから,2001年にオンライン英会話学校の「イングリッシュタウン」がサービスを開始したときは,なるほどと思った。イングリッシュタウンは,パソコンにインストールした音声会議ソフト利用して,インターネット経由で外国人講師や他の生徒と会話をする。

 パソコンと音声会議ソフト以外に必要なのはヘッドセットのみ。海外在住の講師との時差を利用することで,深夜でも好きな時間に受講できる。英会話教室に通う時間がないという悩みを解決するにはピッタリだ。その後もさまざまな企業がオンライン英会話学校に参入し,利用者は増えていくと思われた。

 ところが,実際はなかなか利用者が増えなかった。サービスの質が疑問視されていたからだ。あるオンライン英会話学校の担当者は「オンライン英会話学校を利用している人は,英会話を習おうと思っている人の1%にも満たない」と見る。筆者の周囲の人に聞いても「外国人と話をするときは身振りや表情もヒントになる。対面でないと不安」「音質が悪いと聞き取りにくそう」「パソコンの設定が難しいのでは」など,次々に不安を口にしていた。

Skypeやテレビ会議ソフトがすそ野を広げる

 ただ,実際に取材をしてみると,オンライン英会話学校の質は想像以上に高い。パソコンの設定は簡単。音質は電話と同程度で,十分聞き取れる。対面でないと不安な人は,Webカメラとテレビ会議ソフトを使った映像付きのサービスも選べる。音声会議ソフトやテレビ会議ソフトでの授業は対面式の授業と勝手が違うので最初はとまどうが,慣れてしまえば何ともない。むしろ,講師の話が聞き取れなかったときにテキストチャットで呼びかけたり,自習用に動画や音声コンテンツが多数用意されているなど,ネットを生かしたサービスには好感が持てた。

 オンライン英会話学校の担当者の多くは,「近年,パソコンの性能が向上し,通信環境が整備されたことで,多くの人に品質の高いサービスを提供できる環境がやっと整った」と口をそろえる。音声や動画を安定的に配信できるようになったほか,音声会議ソフトやテレビ会議ソフトの選択肢が広がったのが大きい。

 例えば,いくつかのオンライン英会話学校では専用ソフトのインストールが不要なFlashベースのテレビ会議システムやIP電話ソフトの「Skype」を使っている。これらのソフトはダウンロード型の専用ソフトよりも心理的障壁が低く,使用方法が簡単なので,パソコンのスキルが低い人でも抵抗なく使えるという。

医療英語やタガログ語…,ニッチなサービスが増加

 多くの人が安定してサービスを受けられる環境が整ったことは,従来型のオンライン英会話学校の質を上げるだけではない。従来の英会話教室では実現できないようなニッチなサービスも増えている。

 例えば,アエリアが運営している「カフェトーク」では,個性的な授業が多い。医療現場で使う英会話,芸術やスポーツをテーマにした英会話,仮想空間の「セカンドライフ」内で受講する授業もある。

 英語だけではない。仏語,中国語,韓国語,イタリア語といった主要言語から,ポルトガル語,タガログ語,スワヒリ語といった珍しい言語まである。元ギニア大使のサンコンさんが教えるギニア語の授業まであるのには驚いた。授業料の幅も広く,50分1900円程度のものから60分10万円(サンコンさんの授業だが)まである。

 カフェトークの担当者は「講師の得意分野と生徒の関心や強化したい分野,授業料の予算などをうまくマッチングさせる。一定のテキストに従って授業をする従来型の英会話学校とは異なり,さまざまなユーザーのニーズに応えられる」と話す。実際,受講者には,芸術やスポーツなど共通の話題を持つ講師の授業の方が話題に事欠かず楽しいと考える人や,仕事上の必要で特定分野の英語を重点的に学びたい人などが多いそうだ。確かに既存の英会話学校では,こういった人たちのニーズに応えるのは難しいだろう。

 パソコンやネットの性能が向上したことで,ここ数年,オンライン英会話学校の質も高まった。さらには,ネットならではの強みを生かしたサービス,従来の英会話教室では不可能なニッチなサービスも増えてきている。あらゆるシーンにおいて,ユーザーのニーズが多様化し,それに応えることが求められている時代。オンライン英会話学校に,ネット時代の「教育」の一端を垣間見ることができる。