明日(5月26日)発行の日経SYSTEMSに「アジャイルは現場をハッピーにしたか」という記事を掲載しています。「ワクワクするような座談会ができた」。記事を校了した後に,そんなふうに感じました。

 アジャイル・ブームの火付け役となった「XPエクストリーム・プログラミング入門」が日本語に翻訳されて出版されたのが2000年12月。それから6年半経ってブームは去りましたが,アジャイル開発を採用する現場は少しずつ増えています。当時目指していた現場は生まれているのか。そういう問題意識で企画したのが,この座談会でした。

 アジャイル開発は現場から生まれた開発方法論です。開発担当者のコミュニケーションやモチベーションを重視しています。開発方法論とは言っても,工程ごとのプロセスや成果物が明確に定義されているわけでありません。具体的な開発手順やマネジメント方法は自分たちで作ることが必要で,さらに一度作った手順や方法もどんどん見直して修正していくことが求められています。

 座談会の中で驚いたのが「TRICHORD」の開発現場の話です。TRICHORDはチェンジビジョンという気鋭のベンチャー企業が開発・販売しているプロジェクト管理ソフト。そこの開発者は全く残業をしないのだそうです。社長の平鍋健児氏によれば「製品開発ではアイデアが重要なので頭をクリアな状態にしておくのは重要」とのことですが,言うは易し行うは難し。

 なぜそれが可能なのかというと,理由が二つあります。

 一つは,開発スコープの変更を認めているからです。仕様が膨らんで納期やコストが超過しそうになったら,別の機能や画面など開発のスコープを減らします。もっとも,これは自前で開発しているソフトウエア製品だから可能な話で,顧客企業やエンドユーザーが開発のスコープを決める受託開発ではこんなことは容易にはできません。

 もう一つ,これが重要だと思うのですが,アジャイル開発では開発メンバーはプロジェクトの中で「システム」を作るだけでなく,同時に「システムの作り方」を作っているからです。あるイテレーション(反復型の開発プロセスにおける反復の単位)で作り方が非効率だと思えば,次のイテレーションでは違う作り方を試してみる。それを繰り返すうちに,自分たちにとって最もやりやすい作り方ができあがるのです。感覚的には,開発当初とリリース時点とで半分くらいの作り方が変わってしまうそうです。

 座談会では,アジャイル開発にどっぷりつかっている3人のエキスパートに,彼ら自身の来し方行く末を語ってもらっています。彼らの言葉を聞いていると「なるほど,アジャイルを実践している現場の人はそういう発想をするのか」というのがよく分かります。エンジニアが仕事に対する充実感を感じるポイントが変化していることも分かります。

 もちろん彼らにも悩みはあり,アジャイル開発という手法を教条的に信奉しているわけではありません。ただ,彼らに共通するのは「システム開発という仕事はもっと楽しいものだと思っていたけど,どうしてこんなにつらいのだろう」と感じた体験です。そして「このままではこの業界はもうもたないのではないか」という問題意識です。疲弊している現場では,そこから脱却する手掛かりにアジャイル開発はなると思います。