日経コンピュータでは2007年5月14日号で「続・エンタープライズ2.0-マッシュアップがもたらす破壊と創造」と題した特集を掲載する。果たしてインターネット社会のなかで、企業情報システムは、あるいは企業がどう変わっていくかを正面から取材して考えたものである。

 この分野に強い興味を持ってきた小野口哲記者と、中村の2人で取材を進めた。記者は今年2月から、「SaaS & Enterprise2.0」というITproのテーマサイトの編集責任者を務めていることもあり、この特集に参加することになった。

外部のものを組み合わせる

 日経コンピュータがエンタープライズ2.0という言葉で、企業情報システムの変革について考えたのは昨年4月の特集、その名もずばり「エンタープライズ2.0」だった。その定義は、「ビジネスで成果を上げるための情報を、社内外問わず活用できる企業あるいは、これを実現する情報システム」である。

 エンタープライズ2.0と呼ばれる世界は確実に広がっている。今回の特集で浮上してきたのは「マッシュアップ」という言葉である。具体的にいえば、WebサービスAPIという技術を使った複数のサービスを組み合わせて利用することだ。

 社内外で自由に情報を交換・利用できるようになれば、企業には破壊的な変化が生まれることは間違いない。コンピュータ、いや電話や電報が登場した時代からの夢である。

 だが現実にはリアルタイムに情報をやり取りするのは現在でも簡単なことではない。バッチ処理はおろか、いったん紙に打ち出した情報を人間が別のシステムに入力することすらある。完璧ではないものの、WebサービスAPIを利用したマッシュアップは、長年の課題を解消する現実解になる可能性がある。

 「SaaS & Enterprise2.0」でも、「2007年はエンタープライズ・マッシュアップ元年」、「企業内スタートページは情報系システムを革新させる」といった記事を掲載している。前者の関連性はいうまでもないが、後者もマッシュアップを使うことで、新世代の企業内ポータルを作ることが可能になる点を指摘したものだ。

 いずれの記事も、マッシュアップによって企業情報システムが大きく変わる可能性があることを示唆している。

「Mushup」 から「Mush Ap」へ

 マッシュアップという言葉自体まだ進化の過程にある。最近、米ガートナーのITサービス分野のアナリストであるベン・プリング氏に取材する機会があったが、同氏から、「Mushup」から「Mash Ap」に変わりつつあるという話を聞いた。「Mashup」という言葉は、複数のWebサービスAPIを組み合わせてWebサイトを作成するといった意味だった。これに対して、「Mash Ap」という言葉の印象はより動的だ。サービスを組み合わせたものこそがこれからのアプリケーションになる、というと言い過ぎだろうか。

 進化の方向を示すヒントになりそうなのが、米国で現在急成長しているというRearden Commerceの例である。これもプリング氏の発言による。

 同社は大企業の出張担当者が、飛行機やホテル、レンタカーなどの予約をする際に利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の企業である。同社のサービスを使えば、大企業の営業担当者などが出張の際に、飛行機やホテルの予約などを一つの画面で済ませることができる。

 Reardenは、WebサービスAPIで飛行機会社やホテルなど様々な企業とつながって、このサービスを実現しているわけだ。同社は自らのビジネスを「サービスプロキュアメント」と呼んでいるという。プリング氏は、Reardenについて、「アップルのiTunes Storeと似たエコシステムを作り上げている」と評価していた。

 お気づきの方もいらっしゃるだろうが以上の話は昨日、公開された記者の眼「なぜか進まない企業内のWeb2.0」にも通じる話だ。偶然、似た話題を取り上げることになったわけではなく、現在の企業情報システムにとって旬のテーマだから起きたことだと考えている。