「Web2.0」という言葉が使われ始めて久しいが、この1年で、ウェブAPI(ウェブ・サービスのアプリケーション・プログラミング・インタフェース)を公開する企業が急増している。自社が保有するデータやサービスを、ウェブページの画面で表示するだけではなく、プログラミングに適していて再処理が容易なXML(拡張可能なマークアップ言語)などの形式で提供するものだ。

 以前から米Amazon.comが書籍・家電製品の画像や価格、販売動向(ランキング)といった情報を提供するなど、外資系企業のAPI公開が先行してきた。最近では、「価格.com WEBサービス(2006年9月開始)」「楽天ウェブサービス(2007年1月開始)」など日本企業が提供するAPIも目立ち始めた。

 金融機関もAPI提供を始めている。GMOインターネット証券が2007年3月から「GMOインターネット証券Webサービス」の提供を開始。APIを通じて、株式の売買注文・照会などができるようになった。

 幅広い分野のデータやAPIが公開されるにつれて、複数のAPIを自在に組み合わせてより利便性を高める「マッシュアップ」も盛んになってきた。リクルートが主催したコンテストでは、路線検索やホテル検索などのAPIを組み合わせて、出張計画を簡単に作れるサービス「出張JAWS」が最優秀賞を受賞している(関連記事)。

 理屈の上では、Googleから最新のニュース記事の情報を取得して、「会社名+不祥事」というキーワードのニュース記事が出た瞬間に、証券会社に株式の売り注文を出すようなマッシュアップも可能かもしれない(実際にそれで利益が出るかどうかは不明だが…)。ネット上に点在するデータやサービスを組み合わせることで無限の可能性が広がる。

「SOA」「企業内マッシュアップ」は幻想か

 一方で、企業情報システムの分野でも、「SOA(サービス指向アーキテクチャー)」というキーワードで同様の考え方が広まりつつある。しかし現実には、企業内の拠点や部門ごとに在庫や価格、販売実績などのデータが分断されていて、容易に組み合わせられず、マッシュアップどころの話ではないケースが多いのではないだろうか。

 インターネット由来の技術は、「しがらみ」の多い企業内よりも、一般消費者の間で先行して普及する傾向がある。「産消逆転」「コンシューマライゼーション」と呼ばれるものだ。マッシュアップについては、この傾向がより強く表れる。

 例えば、最近経営統合したある企業のCIO(最高情報責任者)は、筆者にこのような話をしてくれた。

「社内外のデータやサービスを巻き込んでシステムを作れるSOA関連の技術には大きな可能性を感じる。(自分の出身母体である)A社側の情報システムは既にオープン化されていて、(API的な考え方で)実績などのデータをXML形式で引き出して柔軟に活用できる設計も一部に取り入れている。ただし、B社側のシステムはメインフレームでガチガチに作られていて、データを取り出すのが難しい」。

 B社側のシステムのオープン化がマッシュアップの前提になるとのことだった。こうなると、数年がかりで計画的にシステムの再構築を進めなければならず、容易ではない。

 とはいえ、企業内でも、一般消費者向けのAPIを活用して、業務にちょっと役立つものを作るぐらいのことは可能かもしれない(ただし、商用利用などを制限しているAPIもあるので注意が必要)。

 前出の「出張JAWS」も、北海道庁の職員である作者が、煩雑な出張前の業務を楽にするために作ったのだという。製造業の場合、特定の製品の市場価格や販売動向などを把握するには、数日から数週遅れの社内の実績データを見るより、Amazonや楽天、価格.comなどのAPIを駆使して情報を引き出したほうが早い場合もあるだろう。今後こうした動きが、企業内でも草の根的に広まるのではないかと予想している。

 日経情報ストラテジーでは、近々「企業におけるマッシュアップの活用」に関する記事の執筆を予定している。企業内(あるいは企業間)の業務に「マッシュアップ」を活用している例があれば、ぜひ編集部に電子メール(nkiyoshi@nikkeibp.co.jp)でご一報ください。