「ベンダーもユーザーも品質を軽視しすぎていた」、「改革には“背伸び”した目標が必要」、「論理と合理性ばかりではダメだ」---。

 これらは、大手企業のCIO(最高情報責任者)たちが自社の情報システムや組織、ベンダーなどに対する思いを語った言葉である。いずれも、特番サイト「CIO情報交差点」の人気コラム『今週のCIO』で、日経情報ストラテジー編集部の記者が第一線のCIOの方々にインタビューしたものだ。

 このサイトの前身であるITpro「Enterprise:IT経営」で「今週のCIO」の連載が始まってからちょうど1年。これを機に、過去に掲載された約50人のCIOの発言の中から、システム化の方向性やあるべき姿、マネジメントやコミュニケーションのあり方、ベンダーにぜひ言いたいことなど、印象的な言葉の数々を振り返ってみた。

システム化の方向性やあるべき姿について

 まず、過去の取り組みを振り返りながら、今後のシステム化の方向性やあり方について自分の思いを熱く語っているものをいくつか紹介したい。なお、コメントの内容や肩書きは、初出時のものをそのまま掲載している。

「いまのITベンダーは工数をベースとした価格競争に陥ってしまい、導入するシステムの“品質”が軽視されています。ここで言う品質とは、長く使い続けられる柔軟性のこと。この問題は、ITベンダーを利用する我々企業にも責任があります。ユーザー企業の情報システム部門に、品質を評価して、しかるべき対価を支払おうというマインドやスキルが足りない」---KDDIの繁野高仁 執行役員情報システム本部長 (2006年4月10日の記事より

 KDDIの繁野氏は、ベンダーの品質軽視の傾向を厳しく指摘しつつも、責任をベンダーに押し付けるのではなく、ユーザー自身の問題としてもしっかり受け止める。繁野氏が情報システム部門に示した基本原則のうち、特に重視するのが「ビジネスの基本構造」の理解である。「当社のビジネス全体の基本構造をきちんと把握していなければ、柔軟性の高い情報システムは作れません」。

「すぐに達成できる目標では意味がない。目標達成のための改革を実行するのは、業務改革本部ではなく、あくまで事業部門。事業部門と業務改革本部が手を携えて、『共同目標』を立てなければならない」---オムロンの樋口英雄 執行役員業務改革本部長 (2007年4月2日の記事より

 オムロンの樋口氏は、抜本的な業務改革をしなければ達成できない大きな目標を立てることを「ストレッチ(背伸び)」と表現する。「目標が厳しいから、自然と、事業部門側も『ITを使って何とかしなければ』という気持ちになる」。

「変化に対応し、不特定多数の投資家が出す小口注文に対応できるシステムを構築しなければ、海外の取引所との競争に勝てない」---東京証券取引所の鈴木義伯 常務取締役 最高情報責任者 システム本部長 (2006年11月21日の記事より

 2005~2006年に数々のシステム・トラブルを経験した東京証券取引所。その東証が、大規模なシステム開発プロジェクトの経験を買って、業務とシステムの抜本的な改革を託したNTTグループ出身の鈴木氏は、東証が金融インフラの担い手としての役割を果たすことを強く意識する。「東証のお客様は、証券会社や情報ベンダーなど、直接フィー(手数料)をいただくお客様だが、その先にいる機関投資家や個人も大切なお客様であることを常に意識し、金融インフラの担い手としての役割を果たすことを念頭に置いている」。

マネジメントやコミュニケーションのあり方について

 CIOには、情報システム部門という組織全体の統括や、経営トップと情報システム部門との橋渡し、という極めて重要な役割がある。次に、こうしたマネジメントやコミュニケーションにかかわるCIOたちの言葉を紹介しよう。

「この本(ベストセラーとなった藤原正彦著『国家の品格』)で、著者は論理と合理性ばかりではダメだと言っているが、IT部門でも同じ。システムのダウン回数だとか、セキュリティーだとか、バグ(不具合)の数だとか、そういう論理的な尺度だけで管理しようとしても、部員のやる気を喚起できない」 ---ダイキン工業の二宮清 常務執行役員 (2006年4月24日の記事より

 ダイキン工業の二宮氏は「人を育てるには、まずは信頼だ」と強調する。「『任せる→励ます→認める』というサイクルを回していくことが人材育成にとって重要だ。サイクルを回すうちに、本人の意識が高まる」 からだ。「最初から業務やIT(情報技術)の知識が十分でなくても、意識が高まれば、周りの人に聞きながら知識を身に付けられる」。

「(経営トップには)とにかく現場の声を伝えることです。実際に作業をしている人、実務をこなしている人の声を伝えるようにしています。というのも、会社でおかしなことが起きていると、その一端が現場に象徴的な出来事となって出てくることが多いからです」---ハウス食品の早川哲志 上席執行役員 SCM部長兼情報システム部長 (2006年5月15日の記事より

 物流部門在籍時にSCMシステム構築プロジェクトを主導した経験を持つハウス食品の早川氏は、現場の声を何よりも重視する。「私自身もそうですが、立場が上になってくると、どうしても人からの「また聞き」の話が多くなります。だから私はできるだけ自分の足で現場に行くようにしています。(中略)やはり直接会って話すのが一番です」。