先日,「記者自らがIP-PBX(IPネットワークにつながるPBX)装置を初期設定してみる」というテーマでIP-PBXメーカー2社を取材した。これらのメーカーが「ユーザー自ら初期設定や設定変更ができる製品」を発売するということで,依頼したものである。

 初期設定では,Webの設定画面を使ってネットワーク接続情報や内線番号などを入力していき,IP電話機を接続し,通話テストする。楽勝とは言えないが,「こんなこと電話工事会社の人でないと絶対分からないよ」と絶望した設定項目もなかった。ブロードバンド・ルーター(BBルーター)に割と近い感覚で設定できたと思う。これら2製品とも,外線接続に使える電話サービスやIP-PBXにつなげる電話機を限定する代わりに,初期設定を容易にする工夫を凝らしている。

 片方の製品は,IP-PBXのほかにIVR(自動音声応答)やACD(自動呼分配),FAXサーバーのような機能も搭載していたので,これらの機能も設定してみた。IVRは「●●の方は1を,▲▲の方は2を押してください」という自動音声の案内に従って数字キーを押すと,それに応じた情報を読み上げたりオペレータにつないでくれる仕組みだ。音声情報サービスなどでよく使われているが,IP-PBXメーカーの担当者によると,音声情報サービスを提供しているわけではない一般企業にもIVRの活躍場面があるという。「こうなったら,こう」という条件分岐の設定には難しいものがあり,間違った設定もした。それでも「じゃぁ,次はこんなシナリオ」と思い付いて,その場で「かけてくる顧客と受ける我々ともに,手間と時間を無駄にせずに済む電話の使い方」を作っていけるのは興味深く,面白かった。

「BBルーターみたいなIP-PBX」を不思議に思うか

 冒頭で紹介した二つのIP-PBX製品とは,NTTデータが近く出荷を開始する「astima」と,モバイル・テクニカが3月に発売した「xCube-Lite」(クロスキューブ・ライト)である。いずれもLinux OSで動作する「Asterisk」(アスタリスク)というサーバー・ソフトをベースにしている。Asteriskはソースコードが無償配布されているオープンソースのソフトであり,それをベースにした商用製品は上記の2製品だけではない。

 Asteriskの搭載機能や使い方,製品ラインアップについては,まだ知られていないことが多い。そこでニュースや解説記事,導入事例を集めた「オープンソース・テレフォニー」というコーナーをITproの中に最近開設した。どなたでもご覧いただける。「Asteriskとは何か」についての解説も掲載済みである。

 さきほどのIP-PBX初期設定の話に戻るが,「電話のことは業者に任せるべき。ユーザーが勝手に設定するものではない」「オープンソースのPBXで大丈夫か?」という抵抗感を持った方もいると思う。あるいは,その一方で「WebのGUI設定画面を操作しただけ。BBルーターもそうだし,そんなにすごいことか?」「Webサイトでオープンソースのソフトが使われることはよくある。特別なことか?」と不思議に感じた方がいたかもしれない。「電話システムが,PCサーバー上のオープンソース・ソフトで動いている」「PCサーバー上で動くオープンソース・ソフトが,電話システムとして機能する」のどちらの視点で見るかで,感想は異なるのではないだろうか。

新しいタイプの電話ユーザーが出現しつつある

 Asteriskをベースとする商用製品を導入したユーザー企業は,電話システムの捉え方が斬新であり,従来の電話ユーザーとは異なる意見を持っている。例えば,Asteriskに対する不安はないかと問うと,「仮にダウンしても携帯電話やメールを使えばいいではないか」という趣旨の答えが返ってきたりする。無償でダウンロードしたAsteriskを社内に余っていたPCにインストールし,秋葉原から安いIP電話機を買ってきてつないだ事例もある。少数だが「電話システムはメーカーががっちり作りこんだ頑丈なもの。だれでも触れるわけではなく専門知識を持つ電話業者がサポートするもの」といった従来の考え方とは無縁の人々がいる。

 Webやメール,データベース,IDS(侵入検知システム)といった電話以外のITシステムには,「オープンソースのソフトで動く製品」「オープンソースのソフトをベースにした製品」,そして「非オープンソースのソフトで動く製品」など,いくつかの選択肢がある。電話の世界でもオープンソース・ソフトで動く製品を積極的に採用すべき,と単純に主張するつもりはない。IP-PBX装置やビジネスホンには,豊富な導入実績があって販売・サポート体制が充実した製品が多数あり,その実績や面倒見の良さを重視するユーザー企業がいる。それはそれで大切なこと。要は,電話に対する考え方や使い方が多様化し,それに合わせて選択肢が増えてきたことに意義があると思うのだ。