企業の経営課題や業務課題を解決するシステムを企画できる“IT企画人材”。こうした人材が足りないという悩みを抱える情報システム部門トップは少なくない。その人材像や育成方法について、日経コンピュータ4月2日号特集1で取り上げた。

 取材では、IT企画に必要な能力として“問題の本質を把握する力”や“対象を構造的に分析する力”を挙げる情報システム部門トップが多かった。ただ筆者は、それらの能力に合わせて「情熱があること」を付け加えるトップが数人いたことが、気に掛かっていた。

 情熱が必要なのは、どんな仕事でも通じることだ。だが今回、情報システム部門トップらがあえて付け加えたのは、大きく2つの理由があると考える。

 一つは、IT企画という仕事が、答えのない問題に取り組むものだということ。業務課題を解決するために、決まったプロセスはないし、分析手法をうまく使っただけで解けるわけでもない。安易に妥協せずに問題の本質を考え抜く、あるいは、問題の本質をとことん業務部門から聞き出す、といった姿勢のほうが、実はスキルよりも求められている。

 もう一つは、「今後IT企画人材となってほしい若手や中堅に情熱のない人が多い」と情報システム部門トップが感じていること。というのも、「業務部門からシステム開発会社への“メッセンジャー”で満足している情報システム部員も少なくない」という嘆きが聞こえてくるからだ。

 とはいえ、もし情熱が足りないならば、その責任は若手や中堅だけでなく、経営者や情報システム部門トップにもあるといえる。あるITコンサルタントは、「情報システム部門の企業内のポジションが高くないことが、情熱を失わせる原因」と指摘する。

 では、どうすれば情報システム部員が情熱を持てるのか。

 経営層から情報システム部門の地位を認められ、業務部門と対等に責任を持ってシステムを作っていけるのであれば、自ずと情熱が生まれるかもしれない。そのためには、ITに理解がある経営層だとしても、まずはIT企画の能力を高めて実力を認められる必要がある。

 そうした中、実業務と切り離してIT企画の実践的な訓練を実施する企業が増えている。訓練は、“本質を把握する力”などIT企画の能力を身に付けるのに加え、情熱を持たせるための意識改革も進める。

 実際、IT企画人材の育成を請け負う東京コンサルティングの石堂一成代表取締役社長は、「情熱を持たせる仕掛けを用意する」と言う。例えば、実践訓練の意義を訓練生に説明する際に、企業を横断的に把握できる立場のシステム部門が業績の向上に必要であることを「部門長や役員から話してもらう」(石堂社長)。

 また実践訓練自体、情熱を持って臨まなければ進められないほど厳しい。訓練を受ける側は、ITコンサルタントや経営層からレビューを受けながら、これまで身に付けていたやり方を否定される。また、自宅の風呂場や電車の中など、訓練の合間もずっと課題解決のアイデアを考え続けなければならない。

 こうした実践訓練以外に、IT企画人材の育成のために、若手に小規模のプロジェクトを任せて責任を持たせる、という企業もある。もちろん失敗は許されないので、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)として上級者が付いて、注意深くバックアップしている。

 これらの企業は「結局、情熱も本質を把握する力も、実践を通して与えるほかない」と結論付けたといえる。当然、目標管理など形ばかりのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)では無理だ。部員に責任を持たせて実践させながら、上級者が指導する場を作らなければ、なかなかIT企画人材は育たない。「そんな余裕はない」という声が聞こえてきそうだが、そうした場を作る企業とそうでない企業とで、将来的に大きな差がつくように思う。