写真1 日本HPの「Halo Collaboration Studio」。写真中央の女性は米国,右側の女性はシンガポールにいる
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写真2 シスコシステムズの「Cisco TelePresence 3000」。写真提供:シスコシステムズ
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 最近,「テレプレゼンス」(Telepresence)と呼ばれるシステムを体験する機会があった。テレプレゼンスとは,一言で言えば“大きなビデオ会議システム”。昨年後半頃から続々と製品が登場している。

 テレプレゼンスは「HD」(High Definition)対応の50インチや65インチといった大型ディスプレイを1~4枚使う。相手を等身大で映し出せる点が特徴だ。画質も精細で,音質もCD並み。製品によっては照明やテーブル,イスも付属する。

 昨年8月に発売された日本ヒューレット・パッカード(HP)のテレプレゼンス「Halo Collaboration Studio」(写真1動画1)は米国の映画製作会社ドリームワークスと共同開発したものだ。画面の向こう側との一体感を高めるためテーブルや照明などの設計・配置を最適化したという。製品担当者は「長く使っていると本当に同じ部屋の中にいるような錯覚を起こす」と語っていたが,大げさな表現ではなさそうだ。余談だが,筆者はHalo Collaboration Studioを見て,昔あった3画面きょう体のビデオゲーム「TX-1」を思い出した。

 テレプレゼンスは要はビデオ会議システムだが,一部のベンダーは手垢の付いたこの言葉を嫌い,テレプレゼンスと言いたがる。ASP(Application Service Provider)をSaaS(Software as a Service)と言い換えたようなものだが,実際に体験してみると,新用語を使いたいという気持ちを多少は理解できた。確かにテレプレゼンスは従来のビデオ会議とは一線を画しており,別の用語を使っても許されるように思えた。

 感覚的なことを言葉で表現するのは難しいが,テレプレゼンスの特徴である“高精細で等身大の画面”は想像以上に現実感があった。前述の製品担当者ではないが,画面の向こう側の人に思わず資料を手渡したり,コーヒーを差し出したりしそうになるかもしれない。

 国内でテレプレゼンスを販売する日本HPやシスコシステムズ(写真2)によると,「大企業を中心に引き合いは多い」という。オフィスに導入すれば出張を削減できるし,遠隔地のオフィスとのコミュニケーションが密になるのでは,との期待からだ。

 もっとも,現在のテレプレゼンスはかなりの高額。1拠点当たり1千万~数千万円の導入費用がかかる。家電量販店で買えそうなテレビとカメラ,照明や家具の組み合わせがなぜそこまで高いのかは分からない。ただ,コモディティに近い製品の集合体である以上,将来はもう少しリーズナブルな価格になるのではないか。

 筆者が期待したいのはコンシューマ用途だ。既に57インチや65インチといった大型液晶テレビやPDPが家庭向けに発売され,1080i対応のHDカメラが十数万円で購入可能だ。テレプレゼンスに必要なネットワーク帯域も1画面当たり5Mビット/秒程度。FTTHが普及しつつある今となっては,それほど大きな帯域消費ではない。どうしても帯域保証が必要な場合は,NTTが進めるNGN(次世代ネットワーク)を使えばよいだろう。こう考えると,自動車程度の価格で導入できるコンシューマ用のテレプレゼンスも夢ではない。

 単身赴任中のお父さんや留学中の子供,歳をとった両親などとテレプレゼンスで会話すれば,寂しさ(?)を解消できるだろう。ベンダーの宣伝文句みたいで恐縮だが,高い解像度は離れた場所との“空気感”も共有できそうだ。語学のレッスンやカウンセリングといった用途もあるだろう。昔,漫画家の秋本治氏が「こち亀」の中で「テレビ電話を使った同窓会」を描いていたが,本当にそんな時代が迫っていると思う。