インドネシア:Inodonesia Go Open Source政策


インドネシアのOSS推進政策の責任者,研究技術省のEngkos Koswara氏
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インドネシア政府が作成したLinuxなどのCD Nusantara
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 そして,今回の開催国であるインドネシアでは,2004年7月から「Indonesia, Go Open Source」(IGOS)政策を掲げ,オープンソース振興を進めている。通信情報技術省を中心に,国家教育省,法務人権省,情報通信省,産業省の5省庁がIGOSに調印した。

 これまで独自のCD起動ディストリビューション「NUSANTARA」を作成し4万枚を配布したり,オープンソースによるポータルサイト構築ツールNetOfficeやデジタルライブラリGanesha Digital Libraryの開発や,地方の政府システムでの活用などの活動を行ってきた。

 今回のアジアOSSで設立調印式を行ったのが,オープンソース推進組織POSSである。POSSはPendayagunaan Open Source Softwareの略でPendayagunaanはインドネシア語で活用(Utilization)を意味する。インドネシアの研究技術省(Ministry of Research and Technology),産業省(The Minister of Industry),バンドン工科大学,民間企業ではOrcale,IBM,NEC,富士通の現地法人などがPOSSに参加する。

本当の価値は「開発へ参加することの容易さ」


アジアOSSシンポジウムのキーノート・スピーチを行ったインドネシア研究技術相Kusmayanto Kadiman氏
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 もちろん報告者はいずれもオープンソース・ソフトウエアを推進する側であり,すべての施策がうまくいっているわけではない。しかし,第一回のシンポジウムから参加している,Webサイト「オープンソースと政府」を開設した三菱総合研究所の比屋根一雄氏は「当初は,オープンソースの知名度も低かった。オープンソース・ソフトウエアの政府調達や振興などの政策に関する情報を交換し合う中で,着実に普及が進んできた」と話す。

 冒頭でも触れたが,これら新興国がオープンソース・ソフトウエアを求める理由として第一にコストが挙げられることが多い。確かに先進国の物価水準をベースにしているソフトウエアの価格は,新興国の一般ユーザーにとって簡単に購入できるものではない。

 しかし,コストを入手の容易さと置き換えてみると,必ずしも常にオープンソース・ソフトウエアのほうが入手しやすいとは限らない。多くの新興国では,日本のようにブロードバンドが普及していないため,オープンソース・ソフトウエアをダウンロードして入手するためには時間と手間と,場合によってはネットカフェの代金などのコストが必要なためだ。一方,不法コピーは取締が厳しくない国が多いこともあり,アクセスは容易だ。ソフトウエア権利保護団体Business Software Alliance(BSA)が2005年に発表した調査によれば,インドネシアの違法コピー率は87%。とても“身近”だ。

 記者はシンポジウムの直前に,インドネシアのバンドン工科大学を会場に開催されたCodeFestに参加した。CodeFestは,普段はネットワーク上でコミュニケーションすることの多いプログラマが,一個所に集まり夜を徹してプログラムを書くイベントだ(関連記事「なぜ彼らは空を飛び海を渡り膝を突き合わせてプログラムを書くのか」)。そこに立ち会って感じたのは,彼らは“何かを作ること”が好きでしょうがないのだということだ。彼らだけではなく,シンポジウムのスピーカーたちも「我々はこれを作った」と語るとき,誇りに満ちているように感じた。

 シンポジウムのキーノート・スピーチに立ったインドネシア研究技術相Kusmayanto Kadiman氏は「オープンソースの価値は使うことだけでなく,作るプロセスに参加することが容易なこと」と述べた。プロプライエタリなソフトウエアには,外部から触ることのできないブラックボックスが存在する。オープンソースであれば,技術と熱意さえあれば,地球の裏側からでもそこに参画することができる。

 今回のシンポジウムで掲げられたテーマは「OSSの活用によるデジタルデバイド解消とその経済効果」だった。格差は,施しによって解消するものではない。付加価値を生み出す能力を備えて,初めて経済は自立する。本当に彼らが必要としているのは,“ものを作り出す力”ではないか。そしてそのための有効なツールがオープンソース・ソフトウエアなのだろう。