先月,「働きがいのある会社」ランキングが日経ビジネス(2007年2月19日号)に掲載された。ランキング1位になったのは,人材紹介業のリクルートエージェント。IT業界からは,マイクロソフト(3位),日本ヒューレット・パッカード(5位)がトップ10入りした。

 調査を実施したのはGPTW(Great Place to Work Institute)ジャパン。日本での実施は今回が初めてだが,本家の米国では10年前から毎年1月に,米経済誌フォーチュンの「働きがいのある会社ベスト100」として結果が公表されている。今年の1位は,ネット検索サービスのグーグル。これまで米国では食品や小売り,金融企業がトップを分け合っており,IT企業がトップになるのが初めてのことだ。

 1998年に米国で第1回調査が行われたとき,参加した企業は160社ほどだったが,昨年は約600社が申請を行うほど注目度が高まっている。米国企業の中には,米GPTWの調査でベスト100に入ることを経営目標の1つに掲げている企業も多い。欧州でもEU委員会がいち早くGPTWの調査に目を付け,2001年から国際競争力の強化を目的に加盟15カ国への導入支援を行った。このほかアジアや中南米を含め,GPTWは世界29カ国で調査を実施しており,今やグローバル・スタンダードといった様相だ。

従業員の声が評価の2/3を占める

 なぜ,GPTWの調査がこれほど注目されるのか。「働きがいのある会社を作ることが,最終的には,企業の競争力を高める」──こうした従業員重視の経営が世界的な潮流となる中,その達成度を測る指標が求められていることがその理由だ。GPTWの調査は「従業員の声をもとに会社を評価する指標」として,その有効性や普遍性が認知されたのである。

 調査の骨子は,57の設問と自由意見から成る従業員向けのアンケート。GPTWの創設者であるロバート・レベリング氏が,7年をかけて数千人の従業員をインタビューした結果をもとに,会社の「働きがい度」を測るための質問項目を作り上げた。このアンケートを通して得られた従業員の声が,評価点全体の2/3のウェートを占めるところが最大のポイントだ。残りの1/3は,社内制度や企業文化に関する会社へのアンケートから点数をつける。

 「そんな調査をしたら,会社の内情がわかってしまうじゃないか」──毎年,大手新聞社が実施する優良企業ランキングで必ずトップテンに入るある国内大手企業のトップは,GPTWの調査への参加を打診した人事担当者にこう言ったという。そこには従業員を信頼し,率直にその声を聞こうとする姿勢は見られない。  

 90年代に数々の経営危機に直面し,リストラを繰り返してきた日本企業。経営者と従業員の信頼関係には,深い亀裂が生じている。そのことは今回の調査結果にも如実に現れた。

経営者や管理者への不信感が高まる

 GPTWジャパンの斎藤智文チーフ・プロデューサーは,調査を日本で実施するにあたり,500社の企業に参加を呼びかけた。そのうち150社からコンタクトがあり,最終的に調査に参加したのは62社だった。

 GPTWの調査では「働きがい」を実現する要素を「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」の5つに分類している。この中で,日本は欧米などに比べ,「公正」に関わる点数が圧倒的に低かった。

 具体的には「管理者は,えこひいきをすることはない」「裏工作や他人を誹謗中傷する人はいない」「昇進すべき人が昇進している」という設問に対し,否定的な評価をする人が多かったということだ。

 このほか「信用」や「尊敬」に対する点数も他国に比べて低かった。「経営陣は約束したことをきちんと果たしている」「経営陣は言うこととやることが一致している」という項目への評価が低い。

 リストラによって同僚や先輩が辞めていくと職場の活気は失われ,残った社員の志気は低下する。また短期業績のみを重視する極端な成果主義,社員の不祥事対策,反倫理的行動を抑止するための内部統制の仕組み作りなど,従業員からは管理強化の網が幾重にも張り巡らされているように見え,経営者や管理者への不信感は高まる一方だ。

 だが,「点数が低いからといって,『日本の企業が公正ではない』とは必ずしも言えない」と斎藤氏は注意を促す。「会社が公正な評価を行っていても,それが従業員に正しく伝わっていないケースがある。立派な制度を作ったが,コミュニケーション不足で役目を果たしていない場合もあり,非常にもったいない」(同氏)。

 「信頼関係の回復」の基本は,コミュニケーション。制度や施策そのものよりも,どのような方法でどれくらい丁寧に伝えたか,従業員からの質問や意見にどれくらい誠意を持って答えたかが重要なのである。

 実際,ランキング上位の企業に共通する特徴として,「経営者がコミュニケーションに熱心」が挙げられるという。中には「ここまでやるか」と思うほど,従業員へのメッセージの内容やコミュニケーションの方法,タイミングを真剣に考え,実行している経営者もいる。多くの日本の経営者は,まだまだコミュニケーションが足りないのだ。

 次に,上位にランクインした企業の取り組みを紹介する。