「へー、そんなことまでやっているんですか」。最近、ブレード・サーバーに関連した取材で、記者は何度も素っ頓狂な声を上げた。サーバー・メーカー各社の工夫が、とにかく「細かい」のだ。表からは見えないところにまで、使い勝手や機能に細かく気を配っている。

 例えば、日本ヒューレット・パッカード(HP)の「BladeSystem c-Class」。この製品のシャシー(ブレードを格納する専用のきょう体)の中央部分には、冷却風の「逆流」を防ぐ弁がついている。シャシーの後面に搭載した冷却ファンによって、シャシー前面から吸い込んだ空気が、プロセサやハードディスクなどの熱を奪ってシャシー後面から排出される。このとき、暖まった空気がシャシー内に逆流するのを防ぐのだ。

 逆流防止弁は、シャシーの中に顔をつっこんでのぞき込まないと見えない、ほんの小さな部品である。しかし、これがあるのとないのとでは、熱の影響による耐障害性が、全く違ってくるのだという。

 富士通の「TRIOLE BladeServer」は、シャシーを「二重構造」にして、特別な工具を使わなくても、茶筒のふたを外すように、内側のシャシーを引き抜くことができるようになっている。ブレード・サーバーの基幹部品であるミッドプレーン(メーカーによってはバックプレーンとも呼ぶ)を、素早く交換できるようにするためだ。バックプレーンとは、ブレードと電源モジュールや冷却ファンといった部品同士を相互に接続する板状の部品である。その名の通り、シャシーの中央に位置する部品だから、電源などの部品をほとんど取り外す必要があるなど交換しにくい。富士通は同社のシステム運用部門のアイデアをブレード・サーバーの設計に取り入れ、この問題を解消した。

 これらは、メーカーが自社製品に施している工夫の一端に過ぎない。各社は、処理性能や拡張性、信頼性といったサーバーの基本特性だけでなく、表からは見えない細かな工夫を凝らして、自社のブレード・サーバーの性能を高めようとしている。

「2.0世代」のサーバー

 ブレード・サーバーは、プロセサやメモリー、ハードディスクなどを搭載した、ブレードと呼ばれる板状のプロセサ・モジュールと、これを格納するシャシーから成る。単体で機能するタワー型やラックマウント型のサーバーと違って、シャシーにブレードや冷却ファン・モジュール、電源モジュールなどを取り付けて利用する。

 さまざまなモジュールを組み合わせなければ動作しないものの、ブレード・サーバーには、少ないスペースに多数のプロセサを搭載できる集積度の高さ、モジュール化によって部品を容易に交換できることから生じる保守性や耐障害性の高さといった特徴がある。

 実際にこれらの特徴が、企業に受け入れられ始めた。衛星放送大手のWOWOWは2006年夏に、社内に分散していたグループウエアや部門アプリケーションを稼働させるサーバー、ファイル・サーバーなど30台余りを、7枚のブレード・サーバーと仮想化ソフト「VMware」を使って集約している。

 同社システム業務局システム業務部の皆川一郎氏は、「部品がモジュール化されているブレード・サーバーは、プロセサやディスクを個別に交換でき、とても保守がしやすい。多数のプロセサを導入しているようなもので、効果的な運用が可能だ」と話す。「ブレード・サーバーと仮想化技術を組み合わせることで、プロセサやディスクが故障しても、故障した部品だけを交換して運用を継続できる」(同)。

 運用管理を効率化できるブレード・サーバーの利点は、規模が大きくなるほど実感できる。膨大な数のサーバーをデータセンターで運営するシステムに、ブレード・サーバーは適しているといえる。

 おりしもネットの世界では、従来とは質的に異なる新たなWeb上の動きや技術、サービスなどを、「Web2.0」と呼ぶようになった。ブログやWiki、SNSといったWebの技術やサービス、あるいはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のような新しい形態でのアプリケーションの利用法がそうである。

 こういったWebの変化とともに、データセンターにおけるサーバーの利用台数は飛躍的に増加を続けている。一説によれば、米グーグルは45万台にも及ぶサーバーを、クラスタ接続して利用しているという。変わるデータセンターは、サーバーの姿をも変えつつある。ブレード・サーバーは、その象徴的な存在だ。Web2.0に倣って、「サーバー2.0」と呼ぶべきではないか。

ブレードに邁進するメーカー

 機を見るに敏なメーカーは、ブレード・サーバーに舵を切り始めた。「他のサーバーの伸びが鈍化しつつある中、急速に伸びているのはブレードだ。米国ではこれまで、タワー型からラック型へとサーバーの主流が移ってきたが、現在ではほぼ、ブレードに需要がシフトしつつある。日本はまだタワー型が主流だが、ほどなく同様の波が来るだろう」(日本IBMでブレード・サーバーのマーケティングを担当する澁谷慎太郎氏)。大手メーカーは、どこもこうした見方で一致している。

 シェアも急速に伸びている。IDC Japanの調査によれば、国内におけるIAサーバーの出荷台数は、2010年までに年率5%で成長するのに対して、ブレード・サーバーは年率20%の伸びを記録するという。直近の市場調査を見ても、ガートナー ジャパンによれば、06年上半期(1~6月)の国内でのサーバー出荷台数は、前年同期比9.8%増。一方、ブレード・サーバーは同47.1%増だった。全体に占めるシェアはまだ数%にすぎないものの、大きく伸びていることは間違いない。

 台数だけでなく、用途も拡大している。「ノート型パソコンの部品を流用して、Webサーバー向けの超薄型・小型のサーバーとして登場したブレードだったが、今ではアプリケーションやデータベースを稼働させるサーバーとして使いたいという企業が増えている。省スペースや運用管理が容易であるという特徴に対する評価が一般企業でも高まっている」(IDC Japanの福冨里志サーバー リサーチマネージャー)。

 すでにメーカー各社はブレード・サーバーの売り込みに余念がない。販促キャンペーンを、相次いで展開しているのだ。NECは2月から6月末までに期間限定で、中堅企業向けのモデル「SIGMABLADE M簡単導入ブレードセットモデル」を販売する。定価ではシャシーが26万円、サーバー・モジュールが64万円(Xeon 5130 2GHz搭載機を1台)だが、シャシーの価格を値引いて64万円で販売する。日本IBMは1月から6月16日まで、サーバー・モジュールを3台以上購入した場合に、定価46万950円のシャシーを105円で販売する。

メーカーにとって「おいしい」

 もっとも、メーカーがブレード・サーバーに注力するのは、自らの事情も関係している。メーカーにとってブレード・サーバーは“おいしい”製品となっているからだ。

 ブレードやシャシーの形状はメーカーごとに独自で、異なるメーカーのサーバー・モジュールを同一シャシーに混載することができない。同メーカーでも、製品の世代によって新旧のサーバー・モジュールを混載できないケースもある。ユーザー企業は、あるメーカーのブレード・サーバーを購入したら、一定の期間はそのメーカーの製品を使い続けざるを得なくなる。要するに、メーカーにとって顧客を囲い込みやすいのである。

 現状ではブレード・サーバーを構成する部品の標準化が進んでおらず、メーカー各社が独自に開発した部品を使っている。「ローエンドからミッドレンジのIAサーバーは、すっかりコモディティ化してしまい、価格くらいしか目立った差異化のポイントがない。これに対してブレード・サーバーは、メーカーが独自の技術力を発揮して、他社と差異化しやすい製品と言える」(ガートナー ジャパンでITインフラのリサーチを統括する亦賀忠明バイスプレジデント)。

 そのためかブレード・サーバーは、他のサーバーに比べて利益率も高いようだ。あるメーカーの担当者は、「性能が同じくらいのタワー型サーバーとブレード・サーバーを比べたら、利益率はブレードの方が高い。2プロセサ構成のブレードを積んだブレード・サーバーの利益率は、4プロセサ構成のラックマウント型サーバーと同じくらい」と打ち明ける。

 メーカーの思惑はともあれ、ブレード・サーバーが、ユーザーに利点をもたらすのは事実。今後のITインフラ構築や最適化を考える上で、ブレード・サーバーは存在感を増していくだろう。

 なお日経コンピュータでは3月5日号で、ブレード・サーバーの構造や特徴を解剖した特集「サーバー進化論」を掲載した。興味のある方は、ぜひお読みいただきたい。またサーバー2.0の動きを加速しているWeb2.0やSaaS、Enterprise2.0などの動向については、ITproのテーマサイトである「SaaS&Enterprise2.0」で詳報している。こちらもよろしければご覧ください。