先日,クライアント向けWindowsの新版「Windows Vista」が一般向けにも発売された。セキュリティが強化されたことなどが原因で動作しないソフトがあったり,グラフィックスを中心に高い処理性能が要求されたりと,移行の動機づけが今ひとつのところがあるようだ。

 実際,筆者自身,Windows XPが出荷されたときはすぐに複数ある所有PCをすべてWindows XPに更新したものだったが,Windows Vistaはまだ会社のPC1台だけにしかインストールしていない(しかもデュアル・ブートにしていて普段はWindows XPを利用している)。

 そんなWindows Vistaだが,そのサーバー版が,2007年末発売予定の「Windows Server "Longhorn"」(開発コード名)である。筆者は,Windows Vista以上に,このLonghorn Serverには非常に期待している。それは,OSを構成する各種機能がモジュール化され,必要な機能のみをインストールして利用できるからだ。それだけでなく,Windows Virtualizationと呼ぶハイパーバイザ型の仮想化機能が組み込まれたり,ターミナル・サービス(リモート・デスクトップ)機能が強化されたりと,数多くの新機能/機能強化点が盛り込まれている。

GUIのない“Windows”

 例えばLonghorn Serverには,「Server Core」と呼ぶGUIレスのインストール・モードがある。このモードでは,DHCPサーバー,DNSサーバー,ファイル・サーバー,ドメイン・コントローラの,いずれかのサーバー機能だけをインストールする。Explorerさえインストールされないので,操作はすべてコマンド・ライン(コマンド・プロンプト)にコマンドを入力して実行する。例えばファイルをコピーするにはcopyコマンド,ユーザー管理やネットワーク管理にはnetコマンドやnetshコマンドなどを利用する。初期設定さえ済ませれば,リモートから管理可能だ。

 最近のWindowsは安定して動作するようになったが,そもそもWindowsが不安定なのは,GUIに起因するところが大きい。カーネルが復旧不能に陥る(いわゆる“落ちる”)ことは,ほとんどない。カーネル・モードで落ちるのも,ディスプレイ・ドライバが原因であることが多い。元々Windows NT系列のOSでは,ディスプレイ・ドライバはユーザー・モードで動作していたのだが,Windows NT 4.0でカーネル・モードに変更された。

 そのように不具合の原因になりやすいGUIを省いてしまえば,Windowsサーバーは今以上に安定して動作するはずである。さらにメモリーがより少なく,処理性能がより低いCPUのサーバー機で運用できるようになるだろう。今後ますます普及するであろう仮想環境では,物理マシン1台当たりに稼働可能な仮想マシンが増やせるようになる。

 さらにWebサーバー機能のIIS(Internet Information Services) 7.0もモジュール化される。基本認証,CGI,ASPといった各種機能を,必要な機能以外はインストールせずに運用できる。修正パッチを適用するときも,インストールしてあるモジュール用のみを適用するだけで済む。これに対しWindows Serve 2003に付属のIIS 6.0は,各機能がデフォルトでオフになっているものの,各機能は一体となってシステムにインストールされる。

 さらに,IIS 7.0では,独自モジュールを.NET Frameworkを利用して開発可能だ。つまり,オリジナルのWebサーバーを作れる。

ウインドウだけが表示されるターミナル・サービス

 Longhorn Serverでは,ターミナル・サービスも強化される。これまでのターミナル・サービスでは,サーバーのデスクトップ画面を丸ごとクライアントに表示して操作/利用していた。Longhorn Serverのターミナル・サービスでは,サーバーで動作しているアプリケーション・ソフトのウインドウだけをクライアントに表示できる。つまり,クライアントでは,ローカルのデスクトップ上に,リモートで動作しているアプリケーションのウインドウが表示され,あたかもローカルで動作しているかのように見える。もちろん,ローカル・アプリケーションのウインドウと同様に,大きさを自由に変えられる。

 ほかにもLonghorn Serverは,インターネットを介してアクセスしてきたユーザーのためのターミナル・サービスのゲートウエイ機能や,Webブラウザでターミナル・サービスを利用できるようにする機能などを備える。ターミナル・サービス以外にも,クライアントの各種セキュリティ設定に応じてアクセス可能なネットワークを切り替えるNAP(Network Access Protection)機能や,新しいファイアウオール機能なども備える。

Loghorn ServerはCairoか

 モジュール化された高機能なOSというと「Cairo」を思い出す。Cairoは,Windows 95がまだChicagoという開発コード名で呼ばれていたときの,次期Windows NTの開発コード名だ。Cairoはモジュール化されたオブジェクト指向OSとして開発されていたが,結局中止されてしまった。その後Cairoは「理想のOS」の代名詞になった部分もある。Longhorn Serverは,Cairoにどれくらい近づけるのだろうか。