「顧客のシステム運用を請け負う我々のような会社は、サッカーにたとえると守備の最終ライン。顧客はもちろんフォワードだ。攻め込んでくる相手のボールを奪って得点に結びつくパスをフォワードに渡しても、おおっぴらに褒められることはない。ところがひとたび失点すれば、矢面に立たされるのは我々だ」。先日あるITサービス会社の役員は、記者に対し半ば自虐的に漏らしていた。

 この会社は、金融機関向けにシステム運用のアウトソーシングサービスを提供してビジネスを拡大している。アウトソーシングサービスというと「提供会社と顧客との関係が、どうしても“なあなあ”になりやすい。顧客は開発フェーズに重点を置き、運用フェーズへの投資は渋りがちだ」(別のITサービス会社)。こうした中、この企業は顧客と積極的にSLA(サービスレベル契約)を結ぶことで成果を上げている。それでも、ユーザー企業がシステム開発を“主”ととらえ、運用サービスを“従”と考える構図は簡単には変えられないようだ。

 ただ、この役員はこうも指摘する。「システム開発担当で10年、運用担当で10年を過ごした経験から言うと、運用フェーズを熟知しているITサービス会社こそ、ユーザー企業のビジネスプロセスを細部に至るまで把握して新しいビジネスにつなげられる。なのに、このことをITサービス会社の社員自身が一番分かっていない」。

 記者はこの話を聞いて、納得するしかなかった。考えてみれば顧客のシステムを開発する行為は、あくまで、新たな業務プロセスを作り出すための前段階に過ぎない。顧客にとって日々のビジネスに大きな影響を及ぼすのは、システムの開発段階ではなく運用段階。運用サービスの効率化は、顧客のビジネスプロセスそのものを効率化することにつながる。であれば、運用サービスにこそ、システム改善や新規開発を提案するための“種”が埋まっているはずだ――。

 こうした観点から日経ソリューションビジネスの2月15日号特集で「『攻めの運用ビジネス』を今こそ実現!」という特集をまとめた。ITサービス業界のプロの方々は「それができれば苦労しないよ。何を今さら当たり前のことを」と思うかもしれない。だがユーザー企業は、日本版SOX法が控えた今、自社はもちろんシステム運用のアウトソーシング先に対しても内部統制対応を働きかけている。ユーザーが運用に目を向けている今こそ、ITサービス会社が運用サービスへの意識をがらりと変えていく良い機会だ、と考えたのである。

 もちろんITサービス会社も手をこまぬいているわけではない。ビジネス上の取り組みは特集記事に反映したが、取材を進めるうちに、運用サービスに注力する企業が社内の意識改革を着々と進めている現場の様子も伝わってきた。例えば、運用のベストプラクティス集である「ITIL」(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)を社員教育にも徹底的に活用する取り組みだ。

 例えば、NECフィールディングは課長クラスを対象にITIL関連資格の取得を奨励している。運用にかかわる用語の定義や基本的なフレームワークの理解を求める「ITILファウンデーション」という資格については、2007年度末をめどに課長職のほぼ100%を有資格者にしようとしている。いずれは昇進試験の条件にも盛り込む。この資格の取得自体は一般に2~3日の講習を受けることで済む。それでもユーザー企業とのシステム商談で、最初からITILを意識した提案ができることは、一つの武器になるだろう。

 また、富士通サポート&サービスは、2005年度から新人の教育プログラムの一貫として、技術職採用の社員を中心にITILファウンデーション資格を取得させている。2007年度からは、営業配属の新人も対象にしていくという。