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「使えない人間」などいない

2007/02/02
大森 敏行=日経ソフトウエア (筆者執筆記事一覧

 「使えない人間が多すぎる」。職場の周りの人たちに対してこんなことを思ったことはないだろうか。「もっと有能な人たちと仕事ができれば効率が上がるのに」といったように。少なくとも,私はこう思っていた時期があった。

 私が,考えを改めるきっかけになったのが,2005年の春に今の部署である日経ソフトウエア編集部に配属になったことだ。以前,技術系雑誌(今はなき日経バイト)の編集部にいたときに少しだけプログラミングの記事を書いたことはあったものの,ソフトウエアの開発経験はゼロ。はっきり言って“ズブの素人”である。プログラミングの知識が足りないため,寄稿してもらった原稿の査読すらままならない。

 これはまずいと思い,意識の高い技術者の有志が開催しているプログラミング関連の勉強会やイベントにできるだけ出かけるようになった。目的は知識の習得だったが,そうした場に何度か参加しているうちに,私は集まってくる技術者自身に関心を持つようになった。勉強会に来るような人は,もちろん高い技術力を持っている。「できる人」ならば,よりできる人になろうとするのは,ある意味当たり前だ。自分にとって新鮮だったのは,そうした技術者の「人間としての面」である。はたから見ていて私が「できる人」だと思える人ほど,「できない人」=いわゆる「使えない人」の悪口を言わない。というより,人を「使えない」と決め付けたりしない,といったほうが正確かもしれない。

 このときに感じていたことを,私は2006年6月29日に開催されたオブジェクト倶楽部 2006夏イベントのライトニングトークス(10人程度の発表者が5分間の短いプレゼンテーションを競うもの)で発表した(発表資料)。今思い出しても赤面するようなつたない発表だったが,自分が考えていることをできるだけ正直に表現したつもりである。私はこのプレゼンの中で,できる人たちが持っている人間的な力を「人を信じる力」と表現した。

 じゃあ「人を信じる力」って何だ? それが私の新しい疑問になった。「周りの人を信じている」と口にしたり,一時的に思い込むのはそんなに難しいことではない。しかし,現実はそれほど甘くはない。「できない人」は成果を出せないからこそ「できない人」なのだ。信じていると言われたくらいでいきなり「できる人」に変身したりはしない。生半可な信頼は「裏切られた」という気持ちに変わり,人を責める感情になる。それなら最初から信じたりしないほうがいい。

 自分があのプレゼンで「人を信じる力」という言葉で表現したかったのは,そんなことではないはずだ。「人を信じる」ということを「どんな行動に反映させるか」。それこそが重要なのではないか。

主要メンバーの脱退をきっかけに生まれたマジカ

 一つ例を挙げよう。マジカという業務分析ツールがある。名刺大のカードに仕事の内容を書き出すことで,仕事の流れを「見える化」するツールだ。最新版の名称は「マジカ!」という(参考記事)。

 このマジカ!を編集部の同僚に見せたときの反応が面白かった。見るなり「いやなツールだ」と言ったのだ。「バカにされている感じがする」と。これを聞いて私は「至極まっとうな意見だ」と思った。マジカが生まれた経緯を考えれば,こうした感想が出てくるのは自然だからである。

 マジカの生みの親であるスターロジック代表取締役兼CEOの羽生章洋氏によると,マジカが誕生した一番大きな理由は,ある有力メンバーが同社を辞めたことだという。「彼は要件定義がすごく得意な人間で,私と彼と二人で手分けして顧客の要件定義をしていた。ところが彼が辞めてしまった。自分は社長業があり,なかなか現場に出られない。残ったメンバーはコードを書くのは好きだが,顧客の話を聞くことは苦手な人間ばかり。それで,要件定義の中でも特に重要な業務の現状把握に絶対的なスキル不足が発生してしまった。『どうにかしないといけない』ということで作ったのがマジカだ」(羽生氏)。最初から「業務分析のスキルがない人でも業務を把握できるように」という目的で作られているのである。これを「バカにされている」と感じる人は当然いるだろう。

 では,羽生氏は周りの人間をバカにしていたのだろうか。私は違うと思う。確かに,やる気や努力をやみくもに期待するといった「信じ方」ではない。「顧客のためにチーム全体の生産性を上げる」というプロとして当然の目標に向かって,全員が力を発揮できる環境を淡々と構築する。そうすれば必然的に「できない人間」はいなくなる。羽生氏はそう信じていたのではないか。言葉を換えれば「自分が最善を尽くせば周りは必ず付いてきてくれる」という信念だ。これが「人を信じる力」ではないのか。現時点では,自分はそう考えている。

 「でも,プログラミングの分野ではそうした信じ方は不可能じゃないか」と思う人がいるかもしれない。プログラミングでは「できる人」と「できない人」の差が極端だからである。個々のプログラマの生産性に大きな差があることは,もはや常識といっていい。古典的な論文によれば,その差は最大で28倍に及ぶという。100倍の差があるという意見すらある(参考記事)。

 にもかかわらず,「できない」はずの人を信じた事例を私は知っている。Java初心者で構成されるチームがいかにプロジェクトを完遂したか,という事例だ(どんな事例かは参考リンクをぜひ見てほしい)。オブジェクト倶楽部での私のプレゼンも,実はこの事例に触発されて行ったものだ。

 昨年末に,この事例を詳しく取材できそうだという話があった。そこで「初心者プログラマに希望を与えるような記事を書きたい」と取材を申し込んだところ,一度断られかけた。「現実はもっとどろどろしている。そんな話ではない」と。でも私は「希望に満ちた話」を捏造したいわけではない。そこにいた人々が,何を思い,何を感じ,何をしたか,本当のところをただ知りたいだけだ。それを伝えて何とか取材OKの返事をもらった。

 というわけで,この原稿の執筆時点では取材はまだである。ここまで読んでくださった方,ごめんなさい。この事例のレポートは,日経ソフトウエア2007年5月号(3月下旬発売)のJava特集の中に掲載する予定だ。そのレポートをもって,この記者の眼の完結としたい。

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