ビデオやCDのレンタルで最大手の「TSUTAYA(ツタヤ)」。そのTSUTAYAの兄弟会社であるツタヤオンライン(TOL,東京・渋谷)が今夏をめどに,同社が運営するウェブサイト「TSUTAYA online(ツタヤ オンライン)」を大幅に刷新し,コミュニティーサイトの色合いを強める。

 TOLでは,約1000万人いるTOL会員が利用できるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のような仕組みを検討している。詳細はまだ明らかになっていないが,会員がサイト内に個人ページを持てるようにし,会員同士でメッセージをやり取りしたり,各人の好みに応じた商品や作品の情報を表示したりできるようになると見られている。

 TOLのウェブサイトを見ると,既に昨年12月から有名人が映画や音楽,ゲーム,書籍などのエンタテインメント・コンテンツを紹介するブログを何本もスタートさせている。TOLのスタッフが新作だけでなく旧作を紹介するブログもあり,TSUTAYA店舗の利用頻度拡大に貢献しているもようだ。

 こうした動きを知り,昨年インタビューしたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭社長の言葉を思い出した。CCCはTSUTAYAの親会社である。「昔から商売の世界では,顧客中心,顧客中心,って言われてきたけれど,本当に大切なのは人間中心ということですよ。体験情報と人としての尊厳。ウェブ2.0技術の台頭によって,この2つが人々を大きく動かす社会になるのです」。

 「顧客中心」という言葉は,あくまで売り手となる企業側の発想の域を出ない表現だ。しかし,「人間中心」という言葉からは消費者の息吹がじかに聞こえてくる。増田社長が「人間中心」という言葉で表現したかったのは,消費者が自分の言葉で語る体験情報と,人としての誇りを感じたり心の琴線に触れたりする話が,より多くの人の消費行動を促す世の中になる,ということだろう。

 ある商品やサービスを使ったという体験情報にこそ,消費者は大きな価値を置いていく。増田社長は「例えば,学生はいまや,企業が出す就職情報よりも『みんなの就職活動日記』というブログを重宝している」と指摘する。また,「韓国のテレビ番組『冬のソナタ』や『宮廷チャングムの誓い』の視聴率が高かったのは,人を尊敬することの素晴らしさなど,人間の根っこの部分に訴えるものがあるからでしょう」と話していた。

 そんな増田社長はこの1月に56歳になったばかり。経営者として脂が乗っているところだ。氏がサラリーマン生活に見切りをつけ,CCCの前身となる蔦谷書店を創業したのが1983年。それから20年ばかり過ぎた昨年4月に,CCCを持ち株会社にし,1事業部門だったTSUTAYAを分社化した。この動きと前後して積極的に企業買収を始めたこともあり,CCCグループには現在レントラックジャパン(東京・渋谷)やデジタルハリウッド(東京・千代田),ヴァージン・メガストアーズ・ジャパン(東京・渋谷),TOL,Tカード&マーケティング(東京・渋谷)など多数の企業がある。総勢3000人におよぶ巨大グループである。

 もっとも,一般的にはまだ,「CCC=TSUTAYA=レンタルショップ」のイメージが強いのではないだろうか。そんななか,増田社長は「TSUTAYAというブランドが世の中に浸透し,人材や店舗や顧客情報などの事業基盤も整った。いよいよ世界一の企画会社を目指す時が来た」と目を輝かす。「人間中心」の社会になれば,TSUTAYAの約2000万人の会員とTOLの約1000万人の会員のエンタテインメント体験情報が強力な武器となる可能性が高い。

 2月7日(水)の東京・ビッグサイト,ウェブ2.0に関するCCCの顧客戦略について,増田社長が講演する。そこで新たな企画の一端がお披露目されるかもしれない。