「上場維持のためには内部統制に投資せざるを得ないが,手間やコストに見合った効果が見えにくいのはつらい」------。

 日経情報ストラテジーの調査で,日本企業のこんな苦悩が浮き彫りになった。2006年10~11月に実施し,上場企業を中心とした441社のCIO(最高情報責任者)かそれに準ずる役職の方から回答を得た「IT投資とIT経営推進責任者に関する実態調査」の結果である。2007年のIT投資動向を探った調査の詳細は,2007年1月25日現在発売中である日経情報ストラテジー3月号の「成長持続力を高めるIT戦略~今こそ,攻めの先行投資」をテーマとした特集記事で掲載している。

 ここではその一部として,2008年4月以降に上場企業などで義務化される「日本版SOX法」(金融商品取引法)の内部統制ルールについて聞いた部分を紹介したい(日本版SOX法をはじめ,内部統制に関する詳細情報は「内部統制.jp」を参照)。

業務プロセス改革にまで着手した企業は33.1%

 図1は,日本版SOX法対応の作業状況を聞いたもの。全般に作業が進んでいる企業は少ない。9項目すべてで「作業がかなり進んでいる」と回答した企業は8社だけで,この大半が既に米国SOX法に対応している世界規模の企業である。「内部統制を念頭に置いた業務プロセス改革・組織変更」は,着手している企業が33.1%にとどまり,今後作業を始めるとする企業が多かった。内部統制に精通したコンサルタント不足を指摘する声もあるが,今のところ,外部コンサルタントに依頼する予定がないという企業も28.9%あった。

図1●日本版SOX法対応の作業状況

 こうした作業や投資に取り組む目標を聞いたところ,「法的義務への対応・上場維持」が85.1%で圧倒的だった。「業務効率向上」「業務上のミス減少」などを目標とする企業は比較的少ない(図2)。日本版SOX法対応の課題については,「作業に費用・手間がかかる」「コストに見合った効果が見えにくい」「法制度の全体像が見えない」といった回答が多かった(図3)。

図2●日本版SOX法の取り組みの目標(複数回答)

図3●自社における日本版SOX法対応の課題(複数回答)

 過去の調査に比べて,今回は自由記述欄で内部統制に関連した熱心な書き込みが目立った。「少額の不正防止のために巨額の投資がかかる」「最低限の対応はしたいが,コストや業務効率を考えるとどこまでするべきか頭が痛い」「売り上げ拡大や効率化に直結するわけではないので,投資に対する社内の理解が得にくい」といった意見が代表的だ。米国でのSOX法施行による混乱を背景に,「制度自体に問題がある」という意見まであった。

 CIOに対する直接の取材でも,「最近のシステム再構築で経営指標はガラス張りになったし,業務の標準化も進めた。不正を防ぐことが目的なら現状でも十分なはずで,これ以上何をしなければならないのか」という声を聞いた。内部統制に対する問題意識が高い企業ほど,こうした不満を持っているようだ。

22.8%の企業が「最重点IT投資分野は内部統制」

 全体に作業は進んでいなくても,今後のIT投資意欲は強いようだ。営業から意思決定支援まで幅広い選択肢を示して「今後2~3年の最重点IT投資分野」を1つだけ選択してもらったところ,最も多かったのが「内部統制関連」(22.8%)だったのだ(図4)。さらに,内部統制関連のITツールの活用意向を聞いたところ,「ワークフロー管理」「文書管理」などを導入したいという企業が多く,ほかのツールも「既に活用している」または「今後活用したい」という企業が半数を上回った(図5)。

図4●今後2~3年の最重点IT投資分野(18の選択肢から1つを選択,上位のみ)

図5●日本版SOX法対応に関連したITツール活用状況

 こうした意欲の高さは,筆者にとっては意外だった。内部統制に投資する企業が多いのは分かるが,営業や物流といった企業の基幹業務よりも,内部統制に最重点で投資するという企業が2割を超えているのである。

 内部統制が十分に機能するかどうかは,ITよりもむしろ,企業風土の改革や,事務作業の標準化など地道な努力に左右されるはずだ。しかし,図1に見る作業の遅れと合わせて見ると,「まだ作業を始めていないが,今後ITさえ導入すれば内部統制は何とかなる」という企業が多いようにも思える。

【調査概要】
証券取引所の全上場企業と,未上場有力企業の合計4026社に調査票を送付し,「IT経営推進責任者」(CIO=最高情報責任者=とそれに準じる方)に協力を依頼。441社から回答を得た(回収率11.0%)。調査期間は2006年10月中旬~11月中旬。調査票の送付・回収・集計業務は日経BPコンサルティングが担当した。回答企業の分布は,製造業37.7%,流通21.5%,建設・サービス14.3%,情報サービス・コンピュータメーカー11.1%,金融5.2%,その他10.2%。