画面1●日本オラクルの社内ブログ・ポータル
画面1●日本オラクルの社内ブログ・ポータル
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 イントラネットでブログを利用する企業が増えている。社内ブログの事例やノウハウをまとめた書籍『社内ブログ革命:営業・販売・開発を変えるコミュニケーション術』のための取材で,ユーザー企業に話を聞くことができた。なかでも興味深かったのが,日本オラクルだ。

 日本オラクルのアドバンストソリューション本部という開発部門では,部署の全員にブログを持たせている。ブログに書く内容や更新頻度はすべて本人に任されており,メンバーは自由に情報を交換したり議論を交わしたりしている。開発分野における先進事例の一つといっていい。

 同部署では,各メンバーが更新するブログの最新情報がわかるブログのポータルサイトを用意している。そのポータルサイトの検索用フォームに単語を入力し,ボタンを押すと,結果がAjaxでパッと表示されるのだ(画面1)。面白いことに,この機能はメンバーが自発的にアイデアを出し合って,ブログで議論を重ねるうちに形になったものだという。いわば社内ブログによるブレインストーミングの成果だ。

 この機能を実装したアドバンストソリューション本部の冨田慎一氏によると,始まりは自分のブログに書いた“思いつき”だったという。それが,ほかのメンバーから寄せられたコメントなどでブラッシュアップされ,モノになっていった。このようなブログの利用法は開発部門ならではだ。

ナレッジの共有は永遠の課題

 いまでは多くのソフト・ベンダーが社内ブログ製品を展開している。サイボウズの「サイボウズブログ」や,ドリコムの「ドリコムブログオフィス」,シックス・アパートの「Movable Type Enterprise」,ネオジャパンの「desknet's Blog」などだ。

 ユーザー側も社内ブログに期待を寄せている。ITproが2006年10月に行ったアンケートの結果では,今後社内で利用してみたいツールとして「社内ブログ」を挙げた回答者は,49.2%に上った(複数回答可。参考:「テクノロジーのいま 情報共有・コミュニケーションの意識・実態調査から」)。同じ質問で「社内SNS」を挙げた人が36.1%となったことを考えると,インターネットで流行っているサービスやツールを社内でも使ってみたいという意識があることが分かる。

 それでは社内ブログをどのような目的に利用したいと考えているのだろうか。前述のアンケートでは,どのような社内ブログの活用法に効果があると考えられるかについても尋ねている。最も多かった回答が「ノウハウを共有する『ナレッジブログ』」で,6割以上の人が挙げていた(複数回答可)。自由記入欄に寄せられた意見でも,「情報やノウハウを外部に出そうとしない部署があり,部門横断的に情報を共有できるブログに期待したい」というものがあった。

 ナレッジの共有というのは,情報システムの永遠の課題なのかもしれない。社内ブログを利用している企業を取材すると分かるのが,社内に埋もれている情報やノウハウをいかにすくい上げるかに腐心しているということだ。例えば,営業成績のよい担当者が自分のノウハウを開陳すれば,ほかの担当者の成績アップにつながると考えられる。しかし,「せっかく自分が獲得したノウハウをただで人に教えるのはいやだ」と思うのも人情。すると,ナレッジ共有のために社内ブログを導入しても,あまり更新されず効果がないという事態を招いてしまう。

「新入社員」にブログを書かせる

 このジレンマを解消するための妙案を,あるソフト・ベンダーで聞いた。成績トップの“カリスマ社員”にブログを書かせるのではなく,一番知識のない“新入社員”にブログを書かせてはどうか,というのだ。新入社員は毎日必死に学びながら仕事を覚えていく。失敗することも多い。そこで,「今日学んだこと」「失敗したこと」「疑問に思ったこと」をブログに綴ってもらい,それに対して先輩社員や上司がコメントする。するとそのコメントには,その部署ならではの知識やノウハウが表れるはずだ,というわけだ。

 これは面白いアイデアだと思う。知識のない人が書いたものに,知識がある人が“ツッコミ”を入れるというコミュニケーションの形は,盛り上がるからだ。これを半年や一年継続すれば,かなりのナレッジが蓄積できるのではないだろうか。

 またファーストリテイリングでは,国内にある約700店のユニクロにパソコンを配置し,社内ブログを通じて意見や情報を吸い上げるシステムを採用している。このシステムでは,アルバイトスタッフも自分の考えた商品陳列を写真つきでコメントとして投稿する。自分の提案した陳列方法が他店でも採用されれば,これに勝る喜びはない。実際このシステムでは,アルバイトスタッフからも多くの意見が積極的に寄せられているという。

 社内ブログの普及は,これまでどちらかというと定型的で非人間的だった社内の電子的コミュニケーションを,もっとカジュアルでざっくばらんなものにしようという動きでもある。日本オラクルでは自分のブログだからこそ思いつきレベルのアイデアを書き込むことができるし,ユニクロのアルバイトスタッフもブログというなじみやすいツールだからこそコメントしやすいのだ。

 企業内の情報の循環を改善して小回りのきく組織にしたい,と望む経営者は多い。そのためには,意外かもしれないが社内ブログのようなカジュアルなコミュニケーション・ツールが有効なのではないだろうか。