日経ソリューションビジネスの1月15日号で,「2007年商談三つのメガトレンド」という特集をまとめた。日経ソリューションビジネスはシステムインテグレータをはじめとするソリューションプロバイダ向けの雑誌であり,ユーザー企業にシステム提案している方々が中核読者だ。新年号の特集ということで,雑誌の定番「ITサービスにおける今年一年のトレンドを占おう」という趣旨で記事を企画した。

 この特集には「『内部統制』『2007年問題』『Web2.0』から導く」というサブタイトルを付けた。この三つのキーワードを見て,「今さら何でこの三つのキーワードがメガトレンドだ?」と思わないでいただきたい。内部統制とは何かを改めて解説したり,今年は内部統制関連ソリューションが売れる,ということを言いたかったわけではない。

 もちろん内部統制は,ユーザー企業の今年最大の関心事の一つであることは間違いない。関連するITソリューションも多く,小誌でも今年,関連記事を数多く掲載していくことになるだろう。だが今回の記事の趣旨は,「“内部統制対応ソリューション”をどう売り込むべきか」ということとは少し違う。「ユーザー企業とソリューションプロバイダの関係を見直し,ソリューションプロバイダ自らのビジネスを改革するきっかけにしてはどうか」という視点で,ユーザー企業の内部統制への取り組みを見直してみた。

 2007年問題とWeb2.0も,同じ視点で選んだキーワードだ。その意味で,三つのキーワードの共通点は,「ソリューションプロバイダ自らの変革を促すほどの,ユーザー企業を取り巻く大きな環境変化」というわけである。

ユーザー優位の取引関係を一掃する

 ではこれらのキーワードから,ソリューションプロバイダのどんな変革を導けるのか。

 例えば内部統制。昨年金融庁から日本版SOX法の実施基準案が発表され,いよいよユーザー企業は対応を本格化させている。文書管理やアイデンティティ管理といったソリューションを手がけるソリューションプロバイダは「基準案の公表以降,引き合いが急増した」と口をそろえる。

 だがここでは,「ユーザー企業との取引のプロセスを大掃除する」ことに注目したい。

 ユーザー企業の内部統制では,外部委託先,つまりアウトソーシングを請け負うソリューションプロバイダの内部統制の評価も求められる。内部統制の仕組みが確立できていないソリューションプロバイダは,ユーザー企業の発注先候補にも挙がらなくなる可能性が高い。

 そのためソリューションプロバイダはまず,自らが提供する運用サービスやSIサービスの業務プロセスについて,ユーザーからの評価に耐え得る内部統制を整備しておくことが先決である。運用サービスにおけるITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)の取り組みやISO20000取得はその典型だろう。

 その上でソリューションプロバイダは,ユーザー企業に「御社と弊社の内部統制の整備に向け,取引関係を大掃除しましょう」と要求していくことができるのではないか。

 ここ数年来,ソリューションプロバイダが多くの不採算案件に苦しんできたのは,顧客とのあいまいな取引関係が要因だった。あいまいな要求仕様のままシステムを開発した結果,修正や手戻りが発生し大幅なコスト超過に陥る。両者の間で,仕様を確定するためのプロセスや仕様変更のルール,問題が起こったときの責任分担すら明確になっていないことが少なくない。ユーザー企業の内部統制への対応は,こうした不透明な取引関係を根本から見直す契機になる。

 例えば内部統制におけるITの統制では,システムの仕様変更プロセスや,その承認手順を明らかにすることが不可欠。ユーザー企業は当然,外注先に対して安易に「こことここを直しておいて」とは言えなくなる。仕様変更依頼を文書化し,定められたコスト見直しの判断プロセスを経ることが当然になる。その結果ソリューションプロバイダは,ユーザーからの無理難題に悩まされることなく,コストや利益をきっちり管理しながらプロジェクトを遂行できるようになるはずだ。

情報システム部門に置き換わる

 では,2007年問題はどうか。ユーザー企業内で業務に精通したベテラン世代が引退していくこの問題を,単に「レガシーマイグレーションの案件が増える」という短期的な商談のチャンスととらえるべきではない。そこから一歩進んで,ユーザー企業が抱えきれなくなった情報システム部門の機能に置き換わることまで考えるべきだろう。RFP(提案依頼書)を受けてのシステム開発,といった既存領域にとどまらず、システムの企画や要件定義,運用・保守まで仕事の領域を広げる契機だ。ストック型ビジネスに変革するチャンスでもある。

 Web2.0は,従来のソリューションプロバイダが得意ではなかった新しい領域へ目を向ける契機になる。ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった,いわゆるWeb 2.0関連の動向を,多くのソリューションプロバイダは「一部のネット企業が手がけるビジネスで,自分たちのビジネス領域でない」と見ているようだ。だが,消費者に対して直接ビジネスを仕掛ける宣伝部門や営業部門,マーケティング部門といったエンドユーザー部門に対して,その顧客に向けたサービスをいち早く提案していくべきだろう。

 2006年,ITサービス業界は活況を呈した。金融業界を筆頭に仕事はいくらでもある状況で,経営者の最大の関心事は,仕事をこなすための人員をどう確保するかだった。だが,かつての右肩上がりが期待できるわけではなく,今後競争は厳しさを増し,淘汰を迫られもするだろう。業績好調な今こそ,自らのビジネスを主体的に変えていく大きなチャンスである。