「SLAの採用は難しい」。そんな声をユーザー企業の方からよく聞く。

 SLA(Service Level Agreement)とは,ご存知の通り,サービス提供者がそのサービス・レベルを明確に示して,利用者と合意すること。システム運用の効率化や品質向上を図る有効な手段として,“難しさ”を乗り越えてでも,運用アウトソース先であるベンダーとSLAの導入に踏み切る企業が増えている。

 では,SLAを導入する難しさとは何か。「義務が増えることを理由に,SLAの導入を渋るベンダーをいかに説得するか」「どんな項目に,どの程度のサービス・レベルを設定するのが適切か」「提供されているサービス・レベルをどのようにチェックし,PDCAサイクルを回していくのか」――。今回,20社を超すユーザー企業を取材した結果,こうした課題が,各社が実施している解決策とともに見えてきた(具体的な解決策については,日経コンピュータ12月11日号の特集「あいまい運用との決別」をご覧ください)。

 取材を通じて,あらためて実感したのは,これらの課題の解決策の根底に共通するのは「ユーザー企業自身が,システム運用に対する価値観を明確化する」こと。「何を今さら当たり前のことを」と言われそうだが,どんなに顧客のビジネスに精通しているベンダーもコンサルタントも,この肩代わりはできない。最終的には,ユーザー自身が「何を目的に,どれだけのコストをかけて,どんな効果を期待するのか」を決めなければならない。

 「ベンダーが最初に提示するSLAの標準メニューは,そのベンダーにとって,保証しやすい項目が中心になりがち」。そう指摘する声を複数聞いた。「多くの顧客企業に共通で,すでに準備できているものを挙げる」,「電話の応答率など,分かりやすい数字が出るところからSLA化を進める」といった具合だ。例えばこれを「我が社流のSLA」へと仕立て上げるには,互いの価値観をすり合わせる作業が必要になる。そのイニシアチブと取るのは,やはりユーザー企業である。

 「最初はSLAの実態がつかめず,“えいや”で決めたところもあった」と,率直なところを話してくれた,あるシステム部長の方は「それでも一歩踏み出し,SLAをベースに改善サイクルを回し始めることが重要だ」という。また,ペナルティ付きのSLAを導入した某企業のシステム担当者は,利害関係の問題から相手と対立することがあっても,「自社の価値観をきちんと伝えたことが,最後には解につながった」と話す。SLAを決めるということが,「触れたくない部分も含めて自社の運用と向き合い,価値観を明確にすること」だとするならば,「運用の効率化や品質向上のための手段」といった簡単な言葉では片付けられない重さが,そこにはある。