社内でファイルの共有や一元管理をするために,WindowsやLinuxで動作するファイル・サーバーを必ず1台は設置していることだろう。Linuxでファイル・サーバーを構築する場合には,「Samba」と呼ばれる無償のファイル共有サーバー・ソフトを用いることが一般的だ。

 Sambaは,Windowsのファイル共有プロトコルを使って,Windowsパソコンからファイルやプリンタを共有できるオープンソースのソフトウエアである。Linux以外に,FreeBSDや各種商用UNIX上でも動作する。クライアントのアクセス・ライセンスは必要とせずに,何台ものWindowsクライアントを同時接続できる。

 “Linuxも無償,Sambaも無償”であるため,LinuxとSambaを組み合わせると,ファイル・サーバーを安価に構築できる。そうしたことから,Windows向けのファイル・サーバーとして,「Linux+Samba」が定番になってきている。

 しかし,Windowsでファイル・サーバーを構築するよりも,Sambaでファイル・サーバーを構築する方がかなり敷居は高い。Sambaはさまざまなパラメータがあり,「SWAT」と呼ばれるGUIツールがあるものの,Samba特有の設定に慣れていないと扱いにくいからだ。

 以前,Sambaの設定に関する読者からの問い合わせに苦労したことがある。設定に必要なパラメータを1つずつ説明していったが,難しかったようで,結局,実際の環境を聞きながら,こちらでその環境に合った設定ファイルを作成することで対応した。

 また,Sambaはあくまでファイル共有機能を提供するものである。大切なデータを保護するためには,別の仕組みを必要とする。

 筆者は,日経Linuxの記者であるため,LinuxとSambaを使った方法をお勧めしたいところだが,実は,もっとお勧めの方法がある。筆者も,その方法を使うと,「Sambaの導入はもう考えなくてもいいのかな」と思っている。

 それは,NASである。NASは「Network Attached Storage」の略であり,ネットワーク接続型のハード・ディスク装置(HDD)だ。NASには大規模なものから小規模なものまでさまざまな製品があるが,特にSOHO(Small Office Home Office)や個人向けに販売されている製品を利用する方法をお勧めしたい。

 このようなNASの多くは,内部でLinuxが動作しており,ファイル共有にはSambaを利用している。つまり,Sambaを導入したLinuxサーバーと同様だ。ただし,それだけではない。NASには大切なデータを保護するための,バックアップ機能や障害通知機能が搭載されている。

 NASを用いると運用管理の負担がかなり軽減される。さらに1台のサーバーを構築するよりも安価である。消費電力も小さい。サイズは最大でもボックス・ティッシュを縦に2個,横に2個並べた大きさだ。また,極力音が発生しないように配慮されており,CPUファンはなく,HDD冷却用のファンも静音のものが採用されている。

専用ソフトで自動設定

 NASは,導入後の運用管理などであまり手を煩わせない。購入したNASをネットワークに接続し,WindowsやMac OS用の専用ソフトから設定するだけだ。設定といっても,ウィザード形式の専用ソフトがネットワークに接続されているNASを見つけ出し,DHCPによって割り当たられたネットワーク設定を確認するだけなので,ほとんど入力作業は不要である。これだけで,共有フォルダにアクセスできる。

 運用管理は,通知用のメール・アドレスとメール・サーバーを設定し,USBポートに外付けHDDを接続してそこにスケジューリング・バックアップの設定をするだけである。障害に関する通知がないかを確認しておけば,ほぼ自動で運用管理ができる。これらの操作は,すべてWebブラウザから実施できる。さらに,ボタンを押すだけでデジタルカメラから画像を読み込めるNASもある。

 このような機能をSambaだけで実現することはほとんど不可能だ。Sambaを自分で導入する場合,バックアップ・ソフトやメール・サーバーなどのさまざまなソフトウエアを導入し,それぞれに必要な設定を施さなければならない。

 それだけではなく,ネットワーク自動設定用のソフトや管理用のGUIも一から作成する必要があるだろう。NASならすべてがGUIによる操作であり,マニュアルもあるし,サポートも付いているので安心だ。誰もが管理者になれる。

NASは家電に近くなる

 最近のNASには,家電やモバイル機器,PCなどの相互接続性を実現するためのガイドラインを策定する業界団体「DLNA」(Digital Living Network Alliance)の仕様に対応する製品も登場してきている。

 例えば,HDDレコーダと連携して録画したビデオをどこでも見られるビデオ・サーバーとして動作する。このように家電と連携するようになれば,専用ソフトやWebブラウザからの設定も不要な製品も登場してくることだろう。

 PCを使えないユーザーでもNASが使える時代がやってくるのではないだろうか。実際に,バッファローなどのメーカーでは,NASの設定や導入をより簡単にすることを考えている。