経済財政諮問会議は2006年11月30日,第27回会議において労働市場の規制緩和である“労働ビッグバン”などを提言,派遣労働者にとって“福音”となり得る興味深い案を提示した。「派遣期間の制限を撤廃することにより派遣労働者がクビになる可能性を減らす」というものだ。この規制緩和が実現すれば,終身雇用と同様,派遣労働者が同じ会社に終身勤務し続けることも可能になる。

 まずは,現行の「労働者派遣法」の重要なポイントを見ておこう。

 ソフトウエア開発のような専門職(26種類の業務が専門職と認定されている)の場合は,実は現在でも派遣期間に制限はない。例えば,2年契約を2年ごとに4回連続で更新すれば,派遣労働者は10年間同じ会社に勤務できる。編集業務も専門職であり,記者個人も6カ月契約の派遣労働者である。

 派遣期間に制限がないとは言え,1つの会社に3年を超えて勤務した場合は,正社員や契約社員として採用される権利を“得てしまう”。会社が正社員などを雇用する際には,新しい人材ではなく,3年以上勤務している派遣労働者に優先的に雇用契約を申し込む義務があるからだ。

 専門職に該当しない職種の場合,派遣期間は原則1年,最長3年である。会社が派遣労働者を派遣期間(最長で3年)を超えて働かせたい場合は,その時点で,正社員や契約社員といった「直接雇用」の形態に切り替えて,採用する義務がある。

 つまり,専門職にせよ,専門職以外にせよ,3年を超える長期に渡って勤務している場合,正社員や契約社員への道が開けることになる。そして,このことこそが,今まで派遣労働者のクビを絞めてきた“諸悪の根源”と記者は考えている。

正社員への道が開けているせいでクビを切られる

 派遣労働者のほとんどは「正社員になって雇用の安定化と高給の両方を勝ち取りたい」と考えているはずだ。専門性が強いITエンジニアの場合は,例外的に正社員よりも派遣労働者の方が高給取りであることも珍しくはないが,どのみち雇用の安定を望むのであれば,正社員が有利である。

 先に述べたように,現行の労働者派遣法では,3年を超えて働けば直接雇用されるかもしれない。しかしこのことを,派遣労働者は喜んでばかりはいられない。正社員や契約社員として採用される権利を得るということは,会社にとって,それだけ“危険な存在”になるからである。当たり前のことだが,会社は直接雇用したくないので,派遣労働者が直接雇用の権利を得ないよう行動する。つまり,派遣期間が3年間を超えないよう,計画的にクビにするわけである。

 多くの派遣労働者の望みは,「別に正社員になれなくてもいいから,今後もずっと契約を更新し続けたい」というものだろう。しかし,派遣期間が3年を超えないよう会社が派遣労働者のクビを切ると,派遣労働者は3年ごとに新たな職探しをしなければならない。これは生活の安定とは程遠い。派遣労働者が,3年を超えて生涯に渡ってずっと契約を更新し続けるためには,正社員や契約社員として採用される権利(会社側から見れば雇用契約の申し込み義務)をなくさなければならない。

「雇用契約の申込義務」の撤廃を

 今回の経済財政諮問会議での議論は「派遣期間の制限撤廃」である。その意味で,ソフトウエア開発のような専門職には該当しない世界の話にも見える。派遣期間が最長3年と定められている業種の場合は,派遣期間の撤廃によってクビにならずに済むだろうが,ソフトウエア開発や編集などの専門職の場合は,そもそも派遣期間は定められてはいないので,何も変わらないように思える。

 ただし経済財政諮問会議は,「会社による計画的な解雇を避けることが派遣期間の制限撤廃の目的である」と明言している。この点は注目に値する。

 この考え方を専門職を含めた派遣労働者全体に適用するなら,会社による計画的な解雇を避ける本来あるべき方法は「雇用契約の申込義務」の撤廃である。専門職の場合は,3年以上勤務している派遣労働者に優先的に雇用契約を申し込む義務を,専門職に該当しない職種の場合は,派遣労働者の勤務期間が派遣期間(最長で3年)になった時点で同じ労働者を継続して勤務させたいときに「直接雇用」の形態に切り替えて採用する義務をなくさなければならない。

 規制が緩和される際には,ぜひ,派遣期間の制限撤廃に加えて,この「雇用契約の申込義務」も撤廃してもらいたい。それが,派遣労働者の身を守ることにつながる,と記者は考えている。