今週末,高速電力線通信(PLC)の製品が市場に登場します。松下電器産業のコンシューマ市場向けPLCアダプタが12月9日に発売,その前日の8日には住友電工がビル向けのPLCモデムを出荷する予定です。すでに敷設されている電力線をLANのように使える高速PLCを,実体験できる時が迫ってきています。

 ITpro読者の方の高速PLCへの反応も非常に高いものがあります。ITproの「Network」テーマサイトでは,高速PLCのレビュー記事が2週間続けてニュース記事のアクセスランキングでトップを飾りました。記事の内容が製品発表のニュース記事とは異なり,PLCを使ったスループットの実測値などを盛り込んだものであったこともあり,読者の方にも興味をもっていただけたのでしょう。それでも,一つのニュース記事が2週間にわたってアクセストップに居座ることは非常にまれなことです。関心の高さがうかがえます。

家の中ではどこで使う?

 記者にとっても興味津々な高速PLCですが,ではどこで使えるのでしょうか。記者宅のネットワーク環境を考えてみると「試してはみたいけれど,現状では使う場所が特にない」というのが現時点の答えになります。家庭内LANとして無線LANを使っていて,ウサギ小屋なので電波も各部屋に行き渡っています。じゃまなケーブルなしにノートパソコンを使える環境に慣れてしまったら,有線の家庭内配線には戻りたくありません。豪邸にでも引っ越す可能性がない限り,高速PLCの出番はなさそうなのです。

 もちろん,無線LANを導入していない家庭や,電波が届かない場所があるケースで,高速PLCを心待ちにしている方も多いでしょう。読者の皆さんの関心の高さからすると,家庭内での高速PLC需要はかなり多いのだと推測できます。

 我が家でも,「高速PLCがあれば」と思った用途が一つあります。家にあるDVDレコーダーは,EPG(電子番組表)データをインターネットからダウンロードするタイプの製品でした。このため,DVDレコーダーをインターネット接続しないと利便性が発揮できません。無線LANのアダプタを購入して,無線で接続しています。しかし,その当時にPLCモデムなどが製品化されていれば,有線の安心感や設定の簡単さを理由にPLCを選んでいたかもしれません。

 テレビやレコーダーなどのAV機器のみならず,将来的には冷蔵庫や洗濯機,エアコンなど多くの家電機器がネットワーク接続する可能性があります。さまざまな機器にPLCモデムの機能が埋め込まれ,電源を取るためにコンセントにつないだACケーブルがネットワーク接続も兼ねられるならば,それこそ面倒な配線をせずに高度なネットワーク連携ができるようになります。この用途ならば,パソコン接続以外でも十分にPLCが活躍しそうです。

実は,会社で使えたらいいのに

 さて,記者の生活を考えると,ネットワークを使っている時間のほとんどは仕事の場です。通常はデスクにあるパソコンを使っていて,弊社の場合は有線LANによる接続です。外出時はノートパソコン+PHSであったり,メール確認だけなら携帯電話で済ませてしまいます。会社のLAN配線をPLCに置き換えるといった話でもない限り,なかなかPLCとの接点はないようです。

 しかし,社内にいて「ここにLANがあったら」と思うことがしばしばあるのも事実です。弊社では,社内LANに無線LANなどの機器をつなぐことは御法度で,LANのコンセントがある会議室もあまりありません。要するに自席を離れるといきなりネットワーク環境がなくなってしまうのです。会議室に移動しての会議や,打ち合わせコーナーで社外の方とミーティングをするようなとき,「ここでパソコンの画面を見せられれば」と思うのですが,環境がそれを許してくれません。

 そんな時に,PLCモデムをさっとコンセントに挿して,パソコンをネットワークにつなげられたら便利です。LANの配線がない会議室でも,一般的に電源用のコンセントはあります。読者の皆さんの周りにも,ここでLANを使えたらと思う“ネットワーク過疎地帯”は存在しているでしょう。オフィス内どこへ行ってもLANケーブルやコンセントがある恵まれた職場でなければ,新たな配線なしにネットワークを広げられるPLCは魅力あるツールだと思います。

 そこで,弊社のシステム部に「PLCモデムを社内の電源につないでもいいですか?」と聞いてみたのですが,結果は惨敗。少なくとも現状では接続してはダメとのことです。「弊社オフィスは賃貸ビルにあり,他のテナントに影響を及ぼすリスクがある」など理由はいくつかあるようです。試験的であっても「つなぐこと」自体が現状ではNGというのです。

 製品を販売する松下電器産業にも聞いてみました。こちらも家庭では大丈夫としながらも,「オフィスビルでの利用となると,配線の状況が個別に大きく異なるので使えるとも使えないとも言えない」という回答でした。住友電工の製品などを使って,ビルごとPLC化してしまえばいいのでしょうが,「PLCで手軽にネットワーク環境を広げて利便性を高める」という使い方とはだいぶ違います。

 「コンセントに挿すだけで通信OK」という簡便さを備えるPLCですから,家庭だけに閉じこめておくのはもったいないと思います。もちろんオフィスで使うことへの賛否両論はあるでしょう。それでも,高い関心を集めているPLCだけに,製品登場の次ステップとして実際のオフィス導入に向けた評価が進むことを期待しています。