紙について、みなさんはどの程度の知識をお持ちでしょうか。実は『日経パソコン』2006年11月27日号で、量販店でよく見かける写真向け用紙を14製品集め、その品質を徹底評価しました。

 その過程で、紙に関する素朴な疑問がわいては、専門家に話を聞いたり、専門書を読んだりして、消化していきました。詳しくは日経パソコンを見ていただきたいのですが、ここではビジネスパーソンが知っておいて損はない、紙に関する“うんちく”について書いてみたいと思います。従来の『記者の眼』とは、少しテイストが異なるかもしれませんが、しばらくの間、お付き合いください。

「白色度」を知ってますか?

 まず、オフィスで配られたプリント用紙を見て、紙によって白さが違うと感じたことはありませんか。紙には「白色度」という指標があり、製品によってこの度合いが変わってきます。白く見える紙の場合、白色度は85~95%程度。その紙と並べると黄色っぽく見える紙は白色度が70%前後、といった具合です。

 では、どうして白色度が変わるのでしょうか。それは製造工程に関係があります。

 そもそも紙の原料は、植物の繊維。この繊維は、木材チップを煮たり、古紙を水に溶かしたりして作られます。繊維の状態を「パルプ」と呼び、これを抄(す)いて乾かすことで、紙が生まれるのです。抄くとはシート状に伸ばすこと。目の細かい金網の上に水に溶かしたパルプを流し込み、水を切ってこします。繊維が積み重なった状態にして、乾かせば紙の完成です。

 白色度が変わってくるのは、パルプの原料が異なるため。大きく分けて、木材から作られたパルプと、古紙から作ったパルプがあります。封筒や名刺などに「リサイクル」マークが付いているのを見たことがあるでしょう。あのマークが付いているのが、古紙パルプを利用した紙。古紙パルプは、省エネルギーを目的として、新聞や雑誌、段ボールなどを再利用して作られます。現在では、「グリーン購入法」で古紙パルプでできた紙を購入することが義務付けられている自治体や企業も多いのです。

 ただ、古紙パルプをもとに紙を作る場合、完全に白色にするのは技術的に困難です。このため、古紙パルプのみから製造された紙の白色度は、70%程度とどうしても低くなります。さらに、古紙パルプの製造コストは、実は木から作るパルプよりも必ずしも安くなるわけではありません。環境には優しいものの、高価で、白くはない紙ができてしまうのです。

 そこで登場したのが、古紙の配合率を70%程度に減らして、白色度を80%台に上げた製品。古紙パルプ配合率が低いため、安価で白い紙を作れます。古紙だけで作られた紙に比べると、環境には優しくありませんが、木材だけで製造した紙よりはだいぶましです。

写真を奇麗に印刷する専用紙のヒミツ

 同じ紙でも、さらに複雑なのが、写真を奇麗に印刷するために作られる専用紙。写真向け用紙の場合、紙の白色度よりも、印刷した際の見た目、つまり「印刷した結果が人の目にとってどれだけ奇麗に映るか」の方が重要です。これを実現するために、紙の表面に薄いコートを施しています。インクジェットプリンターでも印刷できるように、インク吸収剤などを塗っているのです。このため、「塗工紙」と呼ばれることもあります。

 この塗工紙にも、高グレードと低グレードの大きく2種類の製品があります。両者の違いは、ベースとなる紙。高グレードな製品では「印画紙」を使います。印画紙というのは、昔から写真店で写真をプリントする際に使われてきた、写真を焼き付けるための特殊な紙のこと。紙の表面と裏面が、ポリエチレンでコートしてあるのが特徴です。一方、低グレードの製品は、ポリエチレンによるコートを省き、インク吸収剤を直接塗っています。その分、材料や製造コストが安く済むのです。

 印画紙タイプの紙のグレードが高いとされる理由は、表面の滑らかさ、すなわち平滑性がより高いため。平滑性は、ベースとなる紙に大きく左右されます。表面に塗るインク吸収剤や光沢材は非常に薄い透明な膜であるため、ベースの紙がでこぼこしていると、そのざらつきが表面にも出てしまいます。もちろん低グレードな製品であっても、繊維が目立たないように表面を極力平らにした高級な紙が使われますが、ポリエチレンコートの平滑さにはかないません。平滑性が高いと、光沢感はさらに際立つだけに、この差が画質に響いてくるのです。

 ただ、両者の違いを、店頭に置いてあるパッケージの外観だけで見抜くのは難しいこと。いずれも光沢感をうたっており、どちらのタイプであるか、はっきりと書いていないことが多いのです。「写真印画紙ベースの…」「写真用印画紙技術を応用し…」「銀塩写真用印画紙と同等の紙を使用し…」といった文字があれば、それは印画紙タイプの製品。「一般紙ベースの…」「支持体は上質紙…」「特殊コーティングで印画紙タイプに迫る…」といった文字が見つかったら、それは低グレードの製品と考えればよいでしょう。

紙にも裏と表、縦と横がある

 地球環境への配慮、紙資源の節約が現代のオフィスの課題とされます。しかし、オフィスでも家庭でも、当面の間は紙を使い続けるはず。そこで、身近なところから、紙との付き合い方を探ってみてはどうでしょう。

 まずは紙の裏と表について。多くの人は、何気なくオフィスのコピー機に紙を突っ込んでいると思います。しかし、実は紙にも裏と表があるのです。

 触ってみて、手触りが滑らかな方が、印刷に適した表面。心持ちザラザラしているのが裏面です。先に述べたように、紙は水と薬品に溶かした繊維を金網の上でこして作られます。金網側が紙の裏面で、こす際に金網のすき間から短い繊維が抜け落ちたり、金網の目が表面に写って残ってしまうため、少しだけ裏面の方が表面より粗くなるのです。製造技術の進歩により、最近では裏表の差はなくなってきていますが、表面を印刷に使う方がよりよい結果になるのは確かなことです。

 紙には縦と横もあります。ひもを寄り合わせたロープを頭に思い描いてみてください。ロープは縦方向にほどくことはできますが、横方向には切るしかありません。

 紙もこれと同じです。紙は細長い繊維を寄り合せてできており、その繊維は一方向に並びやすい。紙の場合、縦方向を「縦目」、横方向を「横目」と呼びます。紙を引っぱると、縦目に沿って裂けやすく、腰が弱くなるのです。例えば紙を破る際、縦目に沿って破けば奇麗に裂けます。しかし、横目に沿って破くとビリビリになってしまうのです。