インターネットによる株取引が,夜間でも広がりそうだ。ネット証券各社は,東証などの取引所と同様に売買注文を成立させるPTS(私設取引システム)の導入を表明。他社に先駆けてカブドットコムが9月15日に稼働させた「kabu.comPTS」では,夜間取引の注文件数がこの約2カ月で倍増し,1日あたり8000件を超えた。

 同社全体の注文件数に占める夜間取引の割合も5割程度増えた。好調な出足に手ごたえを得たカブドットコムは11月1日,kabu.comPTSの取り扱い銘柄を当初の300から1000に拡大し,取引時間も23時59分まで約1時間延長した(取引開始は従来通り19時30分)。

 では,実際に夜間取引が成立した件数は,この2カ月でどう推移したのか。成約株数である出来高は日によって大きくぶれるものの,おおまかに言って5万~10万件程度で推移している。

 この結果についてkabu.comPTSの責任者である雨宮猛・常務執行役は,「当初の予想よりもボリュームはまだ少ないが,それは日中の市況が芳しくなかったせいもある。今後は取り扱い銘柄や取引時間に加えて取引種類などを拡充するほか,機関投資家の参加を促すなど,さまざまな策を講じて出来高と売買金額を伸ばしていく」と自信を見せる。

図●カブドットコムの夜間取引の推移

 この2カ月の出来高を見ると,夜間取引に特有の顕著な特徴が発見できる。例えば,10月23日。ソフトバンクが携帯電話の「0円料金プラン」を夕刻に発表した日だ。この日の夜間の出来高は,約22万株とピークに達した()。通常なら発表翌日に東証を介して実行されたであろう取引がkabu.comPTSに流れてきたきことは,想像に難くない。

 このように,夜間に影響力の大きな出来事や米国市場の激しい動きが起きたとき,PTSは威力を発揮する。こうした取引を可能にするのが,PTSのなかでも「オークション方式」という仕組みだ。東証などの取引所と同じように売買の需給関係に応じて株価が変動するよう,参加者(会員)は他の参加者の売り注文,買い注文の希望価格と量を見ることができる。

 ただ,このような仕組みがあっても,売り注文と買い注文が同一の価格で出会わないと,取引は成立しない。個人投資家は一般に,市況の動きに対して売りか買いのどちらかに一斉に流れる傾向があるという。そういった局面では,機関投資家の役割が欠かせない。ネット証券各社がオークション方式による夜間取引を表明した当初は,この点が指摘された。機関投資家はこれまで,ネット証券にはなじまない存在とされていたからだ。

 ところが,カブドットコムの実績もあって,状況は変わりつつある。同社は10月6日,証券3社との間で,kabu.comPTSへの参加を前提とした具体的な協議を開始することに合意した。三菱UFJ証券,ゴールドマン・サックス証券,BNPパリバ証券の3社である。そのほかにも,いくつかの証券会社との間で同様の合意を検討しているという。これらの証券会社の顧客には機関投資家が多く,雨宮常務執行役は「kabu.comPTSの市場の厚みを増す意味で,十分期待できる」としている。他の証券会社がkabu.comPTSを共同利用すれば,システム開発・運用コストの削減にもつながるだろう。

写真●深夜まで稼働するカブドットコムのオフィス

 カブドットコムの夜間取引は,小さい規模ながらも順調に船出した。「1回のシステム・トラブルもなく,売買審査も問題ない。処理能力は現状の注文件数の100倍はこなせる」(雨宮常務執行役)。その意味では十分評価できるといえよう。だが本当の評価を下すのは,いうまでもなくkabu.comPTSのユーザー,つまり投資家である。そして,まだ具体像が明らかになっていない他のネット証券会社の動きも,大きく影響する。

 同じようなPTSのシステムに重複投資するのか。国内外の金融システムに詳しいコンサルタントの木村昌弘氏によると,「米国に多数存在するPTSのシステムは,パッケージ化されて流通するケースが多い」という。さらに米国では「注文数の増減を平準化するために,システムの共同利用も盛んだ」と話す。

 日本の金融市場は,グローバル化・24時間化に十分対応しているとは言いがたい。今の段階では,東証が夜間取引に対応することも考えづらい。カブドットコムがkabu.comPTSの取引時間を約1時間延長したのは,米国のサマータイムが終了したのを受けた措置である。この結果,サマータイム終了後も米国市場の取引開始から29分間は,米国市場の様子を見ながらkabu.comPTSで日本株を取引できるようになった。

 取引時間延長の成果が出るまでには,もうしばらく時間がかかるだろうが,グローバル化・24時間化に向かって着実に進んでいることは間違いない。