日経コミュニケーションは,11月24日にNTT,KDDI,ソフトバンク,ジュピターテレコムのキーパーソンが講演するセミナーを開催する(詳細情報)。テーマはズバリ,「CATVの再編」。このテーマでセミナーを開催する理由を今回述べたい。

 宝の持ち腐れ――。CATV事業者が持つ光ファイバ/同軸ケーブル網を考えるたびに,記者が感じてきたことだ。物理的な通信容量では,ADSLをはるかに上回り,FTTHにも匹敵する。数百チャネルという放送を流せるインフラである。リッチな網を持ちながら,CATV事業者は,そのポテンシャルを生かしたサービスを積極的には展開してこなかった。

 その最たる例が,インターネット接続サービスだ。1998年ころ,日本でもケーブルモデムを使ったインターネット接続サービスが始まった。当時,家庭で利用できる最高速のインターネット接続回線はISDNのみ。Mビット/秒クラスのサービスを提供できたのはCATV事業者だけだった。積極策に打って出れば,ブロードバンド回線の主役に躍り出られたはずだ。ところが,東急ケーブルテレビジョン(現イッツ・コミュニケーションズ)など一部の事業者が接続サービスを始めたものの,その他多くは及び腰。その後,数年してADSLサービスが登場し,ブロードバンド回線の主役の座を一気に奪われてしまった。

 CATV事業者がこのようなのんびりした経営を行ってこれたのも,本丸である「多チャンネル放送」で競争がなかったからだ。CATV事業者は基本的に市区町村の行政単位ごとに作られている。隣の陣地に飛び込んで客を奪い合うといったことせずとも,じっくり腰を据え,ユーザーを徐々に増やすだけで経営が成り立っていた。さらに,ゆっくりとではあるが,電話サービスを提供することで,NTT東西地域会社が入り込めないように家庭を囲い込むことも考え始めていた。

 ところがそんなCATV事業者にも,ついに競争の荒波が襲ってきた。東西NTTが本格的に多チャンネル放送に攻め込んできたのだ。

トリプルプレイで窮地に立つCATV事業者

 東西NTTが今,FTTH(fiber to the home)拡販のために力を入れているのが,インターネット,映像,電話を光ファイバだけで提供するトリプルプレイ・サービスだ。特に映像では,スカイパーフェクト・コミュニケーションズと組んで,FTTH回線でスカパー!と同じサービスを受けられるようにした。しかも,CATVの独壇場だった地上デジタル放送,BSデジタル放送までが視聴できる。

 CATV事業者にとってはたまったものではない。これまではトリプルプレイの展開を進めるCATV事業者は,放送を強みにしてきた。また,インターネットと電話は通信事業者,多チャンネルはCATV事業者と住み分けることもできた。FTTH回線だけでこれらすべてのサービスが完結してしまえば,CATV事業者の出る幕がなくなる可能性がある。しかも,NTTの光ファイバを引き込まれてサービスを受けているユーザーを説得して,CATV事業者の同軸ケーブルにしてもらうのは至難の業。既に都市部のマンションでは,多チャンネル・サービスも含めてすべて光ファイバで統一し,CATV事業者が締め出されるケースが多発している。

KDDI,ソフトバンクがCATV事業者に接近

 では,CATV事業者はどうすればよいのか。通信事業者と多チャンネル・サービスで激突する時代をにらんで事業展開をしてきたのが,CATV統括運営会社のジュピターテレコム(J:COM)だ。従来からトリプルプレイ事業者を標榜し,自社で電話サービスを提供するとともに,買収により都市部のCATV事業者を傘下に収めつつある。

 しかし他のCATV事業者は,自社ですぐに電話サービスをできるほどのノウハウや体力を持たない。また,CATV業界には米国流で買収を推し進めるJ:COMに対するアレルギーがあり,J:COM傘下になることを嫌う傾向がある。

 こうしたCATV事業者の救世主となりそうなのが,NTTグループとライバル関係にある通信事業者だ。KDDIは2005年秋から,CATV網上で直収電話と同じ0AB~J番号を使える電話サービスを提供できるCATV事業者向けメニューを用意。CATV事業者が電話サービスをすぐに始められるように設備・課金システムを提供し,煩雑なさまざまな手続きを代行する。KDDIにとっては,電話の通話料を稼げるほか,東西NTTに頼らない全国的なアクセス・ラインを手に入れるという狙いがある。

 CATV事業者はこのメニューに飛びついた。東名阪の大手CATV事業者がKDDIと相次いで提携しており,既に,CATVの人口カバー率の4分の1でサービスを提供できるようになった。他の有力CATV事業者も提携に動く見込みで,KDDIの電話サービスがCATV業界で大きな勢力に育ちそうだ。

 遅ればせながら,ソフトバンクテレコムも12月からKDDIと同じ狙いで,同様のCATV事業者向けメニューを提供する構えだ。同社の強みは既に500万のユーザーがいるIP電話サービス「BBフォン」だ。相互接続し,これらのユーザーと無償で通話できるようにする。

対NTTで大連合が生まれるか

 このようにCATV業界は今,対NTTという軸で,J:COM,KDDI,ソフトバンクテレコムが陣地を取り合う“戦国時代”の様相を呈し始めている。いまだ旗幟を明らかにしていないCATV事業者も,早晩,通信事業者と組むか,J:COMのようなCATV統括事業会社の傘下に入るかを決断する必要があるだろう。

 CATV網争奪合戦を尻目に,東西NTTは光ファイバのユーザーを着実に増やしつつある。下手をすれば,NTT以外がCATVという閉じた世界で勢力争いをしている間に,勝負が決してしまう可能性も否定できない。こうしたシナリオにならないためには,対NTTを軸にCATVが大連合を組むしかないのではないだろうか。