美容院や,スーツを買うのに寄った店の販売員さんなどに時々,「どんなお仕事ですか?」と聞かれます。余り詳しく言うのも気恥ずかしく,こんな時重宝する言葉が「外回り」。そうすると大抵,「営業さん?生命保険とか?大変ですねえ」という感じで反応が返ってきます。今日書きたいのは,その「外回り」と「情報システム部員」の関係です。

 もう10年来の付き合いになる雑談仲間で,大手メーカーでシステム企画の仕事をしている人がいます。互いに仕事や家庭で慌ただしくて最近はなかなか飲めないのですが,それでも時々会ったりメールのやりとりをしたり。その人が,「四半世紀にわたって」(本人談)抱き続けている問題意識。それが,「情報システム部員は余りにも“外回り”をしなさ過ぎる」ということです。

 私は最近まで,「日経ソリューションビジネス」という,ベンダー(つまりユーザーサイドでなく売り手サイド)をターゲットにした雑誌にいたので,売る立場の方が外回りの重要性を語る姿は何度となく目にしてきました。でも外回りが重要なのは,売り上げノルマを抱えた営業担当者とかコンサルタント(とか記者とか)に限った話じゃないんですね。

ベンダーの営業に負けてるじゃないか!

 「ベンダーの営業担当者やSEは,社外からやって来て現場に食い込んでいく。それに対して我々は名刺なしでも,いつでもふらっと社内の現場に行ける。なのにどうしてベンダーに負けているんだ」。これは彼に会うと3回に2回は出てくる台詞です。

 我々の雑談の中でも,このテーマは頻繁に出てきます。最近の議論の始まりは,私が「業務担当者が直接システムを開発できるという,南米はウルグアイ製のCASEツール(ちょっと懐かしい言葉ですが・・・)」について,開発方法論や組織論に詳しい彼に,意見を求めるメールを送ったことでした。
 
 打てば響くように,こんな返事がきました。

「業務担当者が直接,ソフトを開発できる」のは良いことですね。

CBOPとかドメイン工学とかどうなったのやら。業務現場から遠いところで閉じこもろうとする方法論はみな破産しました。業務現場に出ない引きこもり派はそもそも,現場の実務とか職業人としての交際術を知らないわけですから,メタデータとか標準化といった抽象化方面に行くしかなくなるのですが,こうした抽象化こそ,実は多くの具体的事実に触れていないとできない,という矛盾に突き当たるわけですよ。

業務はやってみるしかないですね。最低,現場に“棲息”して,業務に随行しなければ何も見えない。現場で呼吸しなければ何も分からない。

 長年,“引きこもり”傾向を何とかしようと色々試すうち,そもそもの問題は,「IT専従」という情報システム部員の立場にあるのでは,と感じるようになったそうです。

そもそも「専業SE」という職種はありえないんじゃないか?なんか違和感があるんですよSE専業って。コンサルタントというのも。

理由は「仕事が外から分かるのか?」ということです。つまり,仕事の問題を解決しようと言うとき,自分で問題を理解できない人に,(その問題を)解決(する提案)ができるの?ということです。

 IT専従の弊害は各所に現れている,と彼は言います。ちょっと過激かもしれませんが,紹介しましょう。もちろん情報システム部員である彼は,ある種自虐的というか,自戒を込めて言っているわけですが・・・。

問題理解の前に解決技術が出てくる。それはないだろう。なのに,解決技術が先に決めつけてあって,現場を見ない“引きこもり人種”たちが膨大になり,その人たちの雇用を作らなければならなくなった。

フィットギャップ分析なんておかしいだろ,ってわけです。そもそも目的から始まって手段の選択肢を決めるわけで,手段の側から見ていって,フィットしたところに手を出そうというやり方は野蛮です。

引きこもっていると,セキュリティの運営もできない。「どこで,だれが,どういう仕事をしているか」を知らないし,聞きに行く人脈も無いわけですから。これではどこにリスクがあるかも見えないわけです。

結局は片手間が勝つのか

 私もユーザー企業を取材した際に,しばしば感じるところですが,

結局,「片手間が勝つ」。そう思います。業務の片手間でフリーウエアなんかをいじっている人の方が,先にインターネットを理解していって,ホスト系の“引きこもり人種”を駆逐していった。これが最近,実際に起こったことですよね。

工場を作ったり,販路を作ったり,製品を開発したりする中で,どうしてもプロセスの自動化や情報集中の手段が必要になる。それをどうしようかと詰めていきながら,情報処理技術を片手間で勉強していく。そうした人材の方が、実は実装技術も高かったりするのですよねえ。

 この後も話はどんどん続くのですが,この辺にしておきます。この文章を書いていたら,別のユーザー企業の情報システム部に在籍する方が,取材の合間に話してくれた「家訓」を思い出しました。その方のお父様は,ITにも深~くかかわった方ですが,こんな持論を子供たちにたたき込んだそうです。

「英語やPCはそれ自体で食うものじゃない。読み書きするものだ」

 その方は,今や「ITで食う」立場にあるわけですが,この家訓が深く刷り込まれているせいか,極めて外回り好き。その成果は確かに仕事に生きています。

 そして前述の私の雑談仲間は,こんなところにまで思いをはせています。

情報技術利用が汎用化して,ただの日常になったら・・・。今やどんどん情報技術があたりまえの日常になってきているわけですよね。そうなると今のような,一種職業軍人のような専業SEって不要じゃないですか?

 何やら「記者の眼」というより,「記者の知り合いの眼」ですね。記者をしている私にとっても,非常に刺激になったやりとりでした。いつか,こうした濃い問題意識を持つ皆さんに,サイト上で直言リレーみたいなことをしてもらえたら,刺激の宝庫ができるのではないか,と画策しています。