9年ほど前だろうか。当社の「日経ネットナビ」(2004年に休刊)を読んで,「AT&T WorldNet」に加入した。すべての項目でランキングが1位というわけではなかったけど,米国の通信会社大手という信頼感,海外ローミングが充実という格好良さ(一度も使わなかった…)に引かれたのだった。自分の中だけとはいえ,「att.ne.jp」というドメインに対して一種のブランドを感じていた。もちろん,先輩が名刺に刷っているIIJのドメインは別格。ただ,月額4900円というIIJの月額料金の高さに手が出せなかった…。

 それからのAT&T WorldNetはご存じの通り,運営元が転々とし,名称も変わり,現在,ソフトバンクグループ傘下で「SpinNet」として運営を続けている。私は,さまざまなところにメールアドレスを公開していたのがあだになり,世界中の迷惑メールを受け取り続け,ついには耐えきれず,泣く泣く「att.ne.jp」のドメインを捨ててプロバイダーを変更した。

 ダイヤルアップ接続のころは,料金もプロバイダー間で大きな差があったし,ホームページ容量にも差があった。細かいところをいえば,メールアカウントの数,メールボックスの容量,CGIが利用できるか否かなど,たくさんの相違点があったし,それがプロバイダー選びでは重要なポイントだった。何より,分かりやすい品質として,アクセスポイントへの“つながりやすさ”があった。

 それが今はどうだろう。当時ほど真剣にプロバイダーを選んでいる人はどれだけいるか。プロバイダーのメールよりも,容量が大きく使い勝手も良い無料のWebメールサービスを使い,ホームページ領域は使わずに他社のブログサービスを利用する。当時,あれだけプロバイダーに求めたものを,ユーザーは他社が提供するサービスで補っているのが現状だ。プロバイダーに求められる役割は着実に変わってきている。

 そして,ブロードバンドの普及とともに,周りから聞かれるのは「プロバイダーってどこがいいの?」ではなく,「(回線事業者は)NTT東日本と東京電力はどっちがいいの?」に変わり,逆に「プロバイダーは決めたの?」と聞き返すと「どこでもいいんでしょ?」と返ってくることが多くなった。

 ただ,プロバイダー選びに熱が入っていたダイヤルアップ接続当時と比べて,決定的に違うことがある。ネットショッピングを楽しむ人,ネットバンキングやネットトレーディングを利用する人,オークションに参加する人など,インターネットが生活に密着したインフラの一つになっていることだ。こうした傾向は今後,さらに強まるだろう。ひねれば出てくる水と同じように,なくてはならないインフラとしての重要度は増していくばかり。そのためにも,回線事業者だけでなく,一生付き合っていけるプロバイダーを探す必要があるのではないだろうか。

 話は脱線するが,筆者はこの原稿の続きを家で書こうとして,当たり前のようにパソコンを起動したら,通信できない状態になってパニックに陥ってしまった。ルーターやパソコンを再起動し,設定を片っ端から確認していっても接続できず,怒りとともに事業者に電話したら「料金が未納となっております」との一言。最近引っ越したのだが,その際,通信料金が口座引き落としになっておらず,料金未払いで接続を止められてしまったようだ。ガスと電気は止められた記憶があるが,インターネット接続を止められたのは初めて。ほかの生活インフラと比べて,未払いから止められるまでは意外に早いが,自分の中での生活インフラとしての重要度は極めて高い。

ユーザーは支持したぷららのWinny規制

 ここに面白い調査結果がある。2006年3月,ぷららネットワークスはWinnyの完全規制を発表した。このITpro上でも活発に議論が交わされていたニュースだ。その後,総務省に特定アプリケーションの通信規制は「通信の秘密」の侵害行為である可能性が高いとしてストップをかけられたが,日経マーケット・アクセスが8月に実施した調査では,実に69.2%のユーザーがぷららによるWinny完全規制に対し,賛同の意を表明した。

 ITproの読者からすれば,意外な結果だろう。「プロバイダーが規制するのではなく,ユーザーがWinnyを使わなければいいだけでは?」と思うのは当然だ。しかし,いまやパソコンを介したインターネット利用者は約6000万人。Winnyが何であるかも分からないまま,ただ繰り返し報道される「Winny」という言葉に恐怖だけ覚える人だってたくさんいる。結局,ぷららがWinny遮断を無料のオプションサービスという位置付けにして事態は収束したが,プロバイダーが今後果たすべき役割の一端を垣間見た気がした。