「パソコンが持つ優れた機能をフルに活用することが,生産性の向上につながる。セキュリティや管理にこだわりすぎて,使用できる機能を制限したり機動性を制限したりすることは,社員の創造性を低下させかねない。セキュリティや管理を軽視するわけではないが,パソコンはそもそも生産性を上げるための道具である」。あるソフトハウスに勤務する40代の社員はこう主張する。

 最近,パソコン周りの議論が良くも悪くも盛り上がっている。盛り上がりを演出しているのは,出荷を控えた新OS「Windows Vista」や,秋口に登場したデュアルコア・プロセサ「Core 2 Duo」といった存在だけではない。近年,絶え間なくニュース欄を埋めている情報漏洩事件が,その話題性を高めている。

 情報漏洩事件は枚挙にいとまがないが,特に皆さんの印象に残っているのが,ファイル共有ソフト「Winny」絡みの事件ではないだろうか。今年3月,安部晋三官房長官(当時,現首相)が国民に「使わないでほしい」と異例の呼びかけをするほど社会問題化したのは,記憶に新しい。

 自宅で仕事をするためにデータを持ち帰り,プライベート用のパソコンに入れる。パソコン上で動作しているWinnyがデータを漏洩させていく。このような漏洩のプロセスを見るにつけて,パソコンとネットワークの普及,そして定着して久しい「自宅に持ち帰る」仕事のスタイルといったことに思いが及ぶ。

 パソコンは企業で仕事道具として普及した。しかしそんな情報漏洩のリスクが高じて,企業では「シンクライアント」を導入するケースが増えている。パソコンの設置,ソフトのアップデート,トラブル対策,入れ替えなどにかかる時間やコストは,パソコンの所有台数の多い大企業ほど見逃せない大きさになっているからだ。実際,「業務処理に必要最低限の機能さえ提供するシンクライアントがあれば,従来のようなパソコンはもういらない」という声も,一部から聞こえてきている。

 だが,本当にパソコンは必要ないのか。データを分析し資料をまとめる,場所に関係なく情報を収集し新しいアイデアを練る,自分にあったソフトを使って効率を高める。生産性の高い知的作業は,パソコンの高い性能あって成し遂げられることである。

 こんな今だからこそ,仕事とパソコンの関係について調べておきたい。このような問題意識の下,ITproとその姉妹サイト「Enterprise Platform」では9月末,「仕事とパソコン」と題して調査を実施した。1339人の方からご回答をいただき,500人近くもの方が,自由意見欄に仕事とパソコンについてご意見を記してくださった。冒頭に紹介したのは,回答者の意見の一部である。

 具体的な調査データはEnterprise Platformにアップされている調査記事に譲る。ここでは自由回答欄に書き込んでいただいた回答者のコメントを紹介しつつ,仕事とパソコンの関係について,読者の皆さんと一緒に課題を発掘していきたい。

生産性高めるクライアント環境を求める

 生産性を高めるために,もっと高機能・高性能であってほしい――。一番目立ったのは,パソコンと生産性についての意見だ。

 単にドキュメントやレポートを書くことがメインの業務であっても,自分の使いやすいパソコンの機種と使いにくい機種とで,感覚的には1~2割は効率の差が出る。慣れによる操作の速さ,誤操作の少なさ,操作性に関するストレスがないことは大きなアドバンテージだ。仮に,作業ごとにそれぞれ操作が異なるパソコンを使わなければならなかったら,相当つらいと思う。
(35~39歳,システムインテグレータ/コンサルティング会社勤務)

 パソコンが一般的になったためあまり意識しなくなってきたが,パソコンは高性能になり,ネットワークと接続されたからこそ,仕事の生産性に貢献する。最近はパソコンの性能はもうこれ以上いらないとか,シンクライアントにすべきとか,外部への接続を禁止すべきとか言われているが,それで本当に社員の生産性が上がるかどうかは疑問。
(30~34歳,システムインテグレータ/コンサルティング会社勤務)

 最近はノート・パソコンやUSBメモリーなどによるデータの持ち出しを禁止する企業も多い。こうした面についても「管理の必要性は理解できるが,やり過ぎだ」という主旨の意見も数多く見られた。

 セキュリティなどの面から考えれば,業務用パソコンの一元管理はある程度必要だろう。しかし,あまりにもがんじがらめにしてしまうと,仕事の能率が落ちる可能性もある。ネットワークが発展し,在宅勤務も可能な世の中になったのにもかかわらず,パソコンの持ち出しを禁止するような動きは「逆行」という言葉を思い浮かべる。
(35~39歳,システムインテグレータ/コンサルティング会社勤務)

 パソコンと生産性は大いに関係がある,という声が多い一方で,「性能はもう十分。あとはリテラシの問題」という声も目立った。

 パソコンの性能を言い訳にして,本来仕事をどう進めるかということを考えない人が多い。
(55~59歳,システムインテグレータ/コンサルティング会社勤務)

という意見にも,耳を傾けるべきだろう。

自由度と管理のバランスが大切

 このように回答者のほとんどは,セキュリティ対策や一元管理の必要性を認めている。ただ,管理だけを重視するのではなく,パソコン利用の自由度と運用管理のバランスを見極めることが生産性の向上につながる,と指摘しているのだ。

 パソコンは現在仕事の重要なツールです。よりよいクライアント環境を整えていくのは,個人の権限でもあり,責任ではないかと思います。一方,セキュリティ対策など管理面もすべてを個人に任せるのは難しいでしょう。両面をうまく進めるためには,利用上のガイドラインや注意事項を明確にして,その上でシステムによる自動管理を併用するのが現在の解ではないかと考えます。
(55~59歳,その他の産業・業種勤務)

 ソフトを使えばすぐにできることも,ソフトがなければ手作業でやる必要がある。できればソフトのインストールに関しては制限がないほうが望ましい。ただ,安全対策については各人に最低限のことをしてもらうのが大前提。十分な対応ができない人には利用制限をかけることもやむを得ないと思う。
(25~29歳,情報処理サービス/ソフトハウス勤務)