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 9月に3日間連続でひかり電話の障害を起こしたNTT東日本に続き,NTT西日本でも10月23日からの3日間にわたり,ひかり電話で障害が続いている。日経コミュニケーションでは9月の障害を受けて11月1日号に緊急特集「ひかり電話が明らかにしたIP電話運用の危うさ」を掲載したが,その取材で判明した事実などから今回の障害を考察したい。

 ひかり電話のシステム構成はNTT東日本と西日本でほとんど違いはない。どちらも端末と直接やり取りする加入者系の呼制御サーバー(以下,こちらを単に呼制御サーバーと記す)と,固定電話などとのゲートウエイとして働く中継系の呼制御サーバー(以下,こちらを中継系サーバーと記す)から成る。加入者系の呼制御サーバーが,コンシューマ向けひかり電話と中小企業向けのオフィスタイプをつかさどるものと,ビジネスタイプ向けに分かれているのも同じである。呼制御サーバーはそれぞれ担当するユーザーが決まっており,中継系サーバーは担当する地域が決まっている。例えば,東京の中継系サーバーはひかり電話から「03」地域の固定電話への通話や,固定電話から「03」地域のひかり電話への通話をすべて受け持つ。

どちらも中継系サーバーに問題が波及

 9月の東日本の障害では,最初ビジネスタイプの呼制御サーバーにバグがあり,そこに通話が集中して輻輳(ふくそう)状態に陥ったのが発端だった。その後,呼制御サーバーの負荷を軽くするため,中継系サーバーからの接続を制限した。すると,それからわずか6分後,今度は中継系サーバーが輻輳状態に陥ってしまった。以降,「電話がかかりにくい」状態のほとんどが,この中継系サーバーによるものである。特にこの中継系サーバーが通話の多い東京03地域を担当していたことから,多くのユーザーがトラブルに巻き込まれた(ひかり電話間の通話や東京地域以外の通話などは正常だった)。

 NTT東日本はトラブル2日目の夕方,問題の中継系サーバーをOSから完全に再起動して,技術的にはようやく正常の状態に戻した。技術的にはというのは,3日目も様子を見るために夕方まで接続制限を続け,ユーザーにとっては電話がつながりにくい状態が続いたからである。

 一方,今回の西日本の障害は,「呼処理サーバー」というもう一つのサーバーが発端になった。これは,相手先電話番号から,接続相手となる呼制御サーバーあるいは中継系サーバーを調べるためのサーバーである。コンシューマ+オフィスタイプ用と,ビジネスタイプ用の2台が設置されている。このうちコンシューマ+オフィスタイプ用の呼処理サーバーが輻輳を起こした。

 発端は違うが,その後の経緯はNTT東日本のケースとよく似ている。呼処理サーバーの輻輳により,固定電話からひかり電話への通話が中継系サーバーでストップしてしまった。これにより,8台ある中継系サーバーのうち2台が輻輳状態に陥った。ひかり電話の通話の大半は固定電話との通話であり,中継系サーバーの障害は担当する地域全般に影響する。

 NTT東日本の場合と少し違うのは,NTT西日本では呼処理サーバーの輻輳が25日現在も解決していないことだ。NTT東日本の障害では発端になった呼制御サーバーが輻輳状態だった時間はわずか1時間あまりだったが,NTT西日本では呼処理サーバーの問題が続いており,ひかり電話と固定電話の間だけでなく,ひかり電話間の通話もつながりにくくなっている。そのため,トラブル初日の23日晩に中継系サーバーをOSから完全に再起動したものの,24日に再び輻輳に陥った。25日には呼処理サーバーを増設することで負荷の軽減を狙ったが,再度輻輳になった。

柔軟さに欠けるシステム構成

 ここで気になるのは中継系サーバーの「もろさ」である。NTT東日本の障害では,中継系サーバーから呼制御サーバーへの接続制限を始めてわずか6分で,中継系サーバー自らが輻輳に陥った。NTT西日本でも呼処理サーバーの輻輳が始まってから25分ほどで,中継系サーバーも輻輳を始めた。どちらも輻輳状態に一度入ってしまうと,他のサーバーからの接続制限によっても回復せず,システム・リセットをかけるしかない,というのも同じである。さらに,どちらの障害でもスタンバイ機への自動切り替えが発生しているが,このときに輻輳状態を引き継いだまま切り替わってしまい,問題解決につながっていないのも同じである。

 ひかり電話のシステム構成は柔軟さに乏しい。ある地域を担当する中継系サーバーに問題が起きたとき,他の中継系サーバーで肩代わりすることはできない。呼制御サーバーの方も同様である。ある呼制御サーバーに問題が起きたとき,それにつながるユーザーが,他の呼制御サーバーに切り替えて通話するようなことはできない。

 このあたりは,緊急通報のために回線の場所を正確に把握しなければいけないことや,固定電話とシームレスに動く,といったシステムの要件も絡んでおり,一概にNTTのシステムをダメだということはできない。事実,ケイ・オプティコムなども似たような構成のシステムである。ただし,せっかくIPの上で作るのであるから,もっと柔軟な,スケーラビリティのある構成は実現できないものか,とは思う。

 前述のように,現在のひかり電話の通話の大半は対固定電話などとのもの。中継系サーバーの負荷は自然と高くなる。もっと中継系サーバーを守れるようなシステムにすることが必要であろう。そうでないと,システムのどこかに問題が起きたときに,中継系に波及して障害が長引くといったことを繰り返しかねない。

ひかり電話は「安定」しているのか

 ひかり電話の売り物の一つが「安定性」である。NTTというブランドの安心感と相まって,光ファイバの普及に大いに貢献してきた。この「安定性」は,主に通話品質のことを指している。ひかり電話は広帯域の光ファイバ・サービスで提供されていることに加え,インターネットのデータとは別の専用のネットワークを使うことで帯域の圧迫を避けている。インターネットのデータによって通話品質が落ちることがないのがメリットだ。

 一方,今議論になっているのは,電話がつながるかどうかという「信頼性」の問題だ。9月,10月とトラブルが相次いだことで,ひかり電話の信頼性に揺らぎが生じていることは否めない。ひいては「IP電話に将来を委ねて大丈夫なのか」という議論にも発展しかねない状況だ。

 筆者はIP電話だから信頼性が劣る,とは思わない。実際,テレコム・イタリアなどは既に5年間IP網で電話を運用しているが,過去に大きなトラブルはないという。

 問題はIPそのものよりも,ひかり電話と,固定電話など従来の技術の電話をつなぐ部分,つまり中継系サーバーのところにある。前述のように,この部分が柔軟性に欠ける構成になっていることが,トラブルにつながりやすく,トラブルを長引かせる要因になっている。NTT西日本は,2006年初頭に何度かひかり電話で障害を起こし,7月に体制強化を図ったところである。トラブル時の処理手順なども詳しく定め,障害を素早く解決するために多くの手を打った。トラブルが起こっても2時間以内に復旧する,というのがその目標であった。これだけの対策を打ちながら,3日間にわたって問題を解決できなかったということは,中継系の抜本的見直しが必要なのかもしれない。

 NTTがこれから構築を進めるNGN(次世代ネットワーク)になれば,こういった問題は起きないのだろうか。

 NGNが「安定」しているというのも,主にインターネットのトラフィックから電話の通話を守る機能を備えていることを指す。今回のような信頼性の問題は,また別である。特にすべての通話がIPに移行するまでは,固定電話などとのゲートウエイの部分がウイークポイントになる可能性は否定できない。

 筆者が危惧する最悪のシナリオは,大地震などの災害が起こったときのことである。阪神・淡路大震災や,新潟県中越大震災などでは,電話は輻輳によってつながりにくくなったものの,インターネットなどデータ回線は比較的使えることが多かった。

 今のままのひかり電話であれば,通話が殺到すれば輻輳を起こす恐れが高い。一方,インターネットだけを使う電話,例えばSkypeのようなものは,インターネットが通じていればそれなりに通話できる可能性が高い。いざというときにインターネット電話の方が役に立つとなってしまえば,NTTにとって名折れであろう。IPだからこそ強い電話に成長することを,ひかり電話に期待したい。