筆者は今年5月,これから本格導入が始まるUHF帯ICタグの干渉問題について書いた。UHF帯ICタグは通信距離が3~5m程度と長いことが災いし,複数のICタグリーダーを近接して設置すると干渉しやすい。5月の記事では「極端なケースでは,同時に3台しか電波を出せない」という日本自動認識システム協会の実験結果を紹介した。

 UHF帯ICタグは,米ウォルマート・ストアーズや米国防総省などに続き,ヨドバシカメラも導入を進めるなど,物流用途などでは本命視されている。その干渉回避が難しいようでは導入が滞る。特に日本では,UHF帯ICタグに割り当てられている帯域が2MHz(高出力型の場合,ハンディ型などの低出力型は3MHz)と狭いことが干渉の回避を難しくしている。そこで前述の記事では,今後の対策が待たれるとも書いた。

 それから約半年が過ぎ,UHF帯対応のICタグやリーダーは続々と新製品が登場している。「干渉回避」をうたうリーダーもいくつか出てきた。今回はその仕組みを解説したい。

反射板で電波を囲い込む

 一つ目は,NECが年内に出荷する予定のゲート型リーダーである。鳥居のような形をしていて,ICタグが付いたパレット(荷物を運ぶための台)や段ボール箱,通い箱(繰り返し利用可能な箱)を,フォークリフトや台車で運搬する際に通過させて一括して読み取れる。このリーダーは,ゲートの両側に反射板を取り付けて電波をゲート内にできるだけ閉じ込めることで,干渉を起こりにくくした。

 NECのゲート型リーダーには,4個のアンテナを組み込んである。そのうち2個は上部に設置してあり,ゲートを通過しようと近づいてくる荷物の前面に張り付けられたICタグと,ゲートを通過したあとの荷物の背面に張り付けられたICタグを主に読み取る。このアンテナは上から床方向に電波を発射する。このため,電波はあまり遠くまで飛ばず,干渉を起こしたりする危険性は低い。

 工夫しているのは,ゲートの側面から電波を発射するために取り付けた2個のアンテナである。ゲートを鳥居とすると,その肩に当たる部分から,床方向に電波を発射するように設置されている。ゲートの側面には複数枚(枚数は非公開)の反射板が斜めに取り付けられており,これが上部から発射される電波を反射し,ゲートの真下を通過する荷物に真横から電波を照射する。

 通常のゲート型リーダーは,鳥居の足の部分にアンテナを取り付け,床と平行な水平方向に電波を発射する。その電波が,上下左右にラグビーボール状に広がり,隣のゲート型リーダーとの干渉を引き起こす原因になりやすい。これに対してNECのリーダーは,電波をアンテナから下向きに発射するため周りに広がりにくい。水平方向には,反射板で反射された電波だけがゲート内にピンポイントで届く。なおかつ,反射された水平方向の電波は,反対側の鳥居の足に取り付けられた反射板のおかげで,外部に漏れにくい。

 NECでは,物流センターなどで近接して設置する用途を考えており,「実際にゲート型リーダーを横に並べて実験しても,ほとんど干渉は起こらない」(NEC制御システム事業部技術戦略エキスパートの村山裕樹氏)という。このゲート型リーダーを使えば,リーダーの近くに放置された荷物のICタグを誤って読むといったことも回避できる。

 価格は約800万円から。NECはまず,主要なパソコン生産拠点であるNECパーソナルプロダクツ米沢工場の検品作業で,今回の製品を導入する予定である。

アンテナの指向性を変える

 二つ目はオムロンのリーダーである。こちらはアンテナ自体の工夫などで,干渉回避を図ろうとしている。通常はラグビーボール状に広がる電波を細長く指向性の強い電波の集合体とし,特定の方向は電波を強く,ほかの方向は弱く設定できる。ある方向の電波が,他のリーダーに干渉を及ぼしていると分かれば,その方向だけ電波を弱めればよい。他のリーダーが発射する電波や周囲のノイズなどを検知するキャリアセンス専用のアンテナも用意している。干渉回避のために,正確なキャリアセンスに基づいて帯域が空いている時だけ電波を出すのだという。

 UHF帯ICタグシステムの本格導入は,これから始まるところである。技術的な障壁については,解決策が見えつつあるようだ。あとはユーザー企業の知恵によって,ICタグの特性をどう自社の競争力強化に結び付けられるか。すでに先進企業は走り出している。