「CDMA2000とW-CDMAの次世代方式を統合化すべきだ」--。第3世代移動通信(3G)方式「CDMA2000」の普及推進団体である米CDG(CDMA Development Group)が大いなる野望の実現に向けて動き出した。

 両次世代方式の統合化に賛同するメンバーを募って2007年初めにフォーラムを設立し,具体的な検討に着手する。最終的には,「3.9世代」や「第4世代(4G)」と呼ばれる次世代方式については,現在どちらの3G方式を採用している移動通信事業者であっても導入できるような仕様にしたい,と考えている。

 これによりCDGに参加するメーカーは,CDMA2000方式を採用している通信事業者に加え,W-CDMA方式を採用している世界の通信事業者を相手に無線インフラを提供したい考えだ。

 次世代移動通信方式の標準化動向を見ると,CDMA2000関連方式を扱う仕様作成団体「3GPP2」は,「3.5世代」と呼ばれる「1xEV-DO rev.A/B」(DOrA/DOrB)に続いて,OFDMA(直交周波数分割多元接続)ベースの次世代方式「1xEV-DO rev.C」(DOrC)の標準化を進めており,2007年4月に仕様を完成させる予定である。日本ではCDMA2000関連方式を採用しているKDDIが伝送能力で優位に立っており,今後もDOrC方式の採用を念頭に置いている。

 一方でW-CDMA関連方式を扱う「3GPP」は,3.5世代のHSDPAやHSUPAに続いて,OFDMAベースの次世代方式「3G LTE(Long Term Evolution)」の標準化を2007年6月に終える予定だ。こちらでは,NTTドコモが自社方式「Super 3G」を3G LTE向けに提案し,2006年6月の会合で基本仕様の一つに採用された。

 このように日本の主要事業者が従来方式に沿った高度化を想定する一方で,CDGは仕様統合化に向けて既に動き始めている。CDGは3GPP2に対して強い影響力を持つ。その3GPP2は,既存のDOrAなどとの互換性をなくしたDOrC方式の標準化を優先させることを6月に決定した。これについてはKDDIが強く反対して,既存方式との互換性がある仕様を優先的に作成することを求めたが,かなわなかったという経緯がある。

 CDMA2000方式を採用する有力事業者であるKDDIの要望が通らなかったのは,CDGに参加するメーカーなどがCDMA2000関連方式に対応する無線インフラ機器の市場が近い将来には頭打ちになる,という危機感を抱いているからのようだ。

 もっとも日本市場を見ると,仮にCDGがCDMA2000事業者だけでなくW-CDMA事業者も導入できる次世代方式の策定に成功したとしても,自社方式の採用にこだわるNTTドコモが採用する可能性は少ないと筆者は考えている(詳細は拙著クアルコムの野望をご参照下さい)。

 ただし,現時点で競争力に不足感があるソフトバンクモバイルが,現在採用しているW-CDMA関連方式からDOrC方式に乗り換えるというシナリオには,いくらか現実味があるように見える。そうなれば現在好調のKDDIと対抗し得る強力な武器をソフトバンクモバイルが手に入れることになるからだ。

 もっともそうなれば,KDDIとCDMA2000対応メーカーとの間に不協和音が生まれる可能性もあるだろう。CDGを中心とする今回の動きは,国内における数年後の携帯電話事業者間の競争環境に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

IEEE802.20の標準化体制は11月に再編成へ

 次世代の移動通信規格を巡る業界内の主導権争いの舞台はこれだけではない。IEEE(米国電気電子技術者協会)は2006年9月に,新しい移動通信方式「IEEE802.20」の規格化を検討してきた標準化グループを再編成することを決定した。具体的には,米QUALCOMMのコンサルタントが担当していた同グループの議長を変更し,IEEEの標準化手続きの検討組織「SASB」が,中立的な議長を2006年11月12日までに選出するとしている。

 また,IEEEの標準化では個人名で投票権を取得することが可能だったが,特定の企業から報酬を得る個人の意志が投票に影響を及ぼしているため,個人が所属する会社名や資金の流れなどを報告することを今後は義務付ける。さらに標準化作業の中立性を高めるため,これらの取り組みを監視する機関を設置する。

 IEEEは2006年1月にIEEE802.20の基本仕様を決定し,米QUALCOMMが提案した「QTDD/QFDD」方式と京セラの「BEST-WINE」(iBurst)方式を採用していた。しかし,この決定に関する手続きなどに対して「IEEE802.16e」(モバイルWiMAX)を推進している米Intelや米Motorolaなどが,「本来は提案受け付けから基本仕様の決定まで6カ月以上の審議を経なければならないという規定があるが,802.20についてはそれが行われなかった」と異議を申し立てていた。

 そこでIEEEは6月に802.20の標準化活動を休止し,寄せられた異議の解決方法を検討した結果,今回の決定を下した。既に決定している基本仕様が有効であるかどうかは現時点では不明であり,この点も11月に判断が下される見通しとなっている。

 今回のIEEEの決定についてIntelは,「802.20の標準化作業は事実上,振り出しに戻った」としている。またQUALCOMMは,「新体制になって仮に方式の提案を再度募集することになったとしても,わが社の技術的優位が変わることはないだろう」という。802.20の候補となる方式が再募集されることになった場合は,Motorolaが提案する可能性をほのめかしている。

 いずれにしても,これまでの802.20の標準化では,技術力でリードするQUALCOMMなどが標準化を急ごうとするのに対して,競合企業が様々な手段で標準化の進行を遅らせようとする状況が繰り返されてきた,という見方もある。今後は,新しい標準化体制を決定するSASBの組織の透明性にも注目すべきと思われる。

番号ポータビリティ導入で高まる基礎体力の重要性

 日本では,電話番号を変えずに携帯電話の契約事業者を変更できる「番号ポータビリティ制度」の利用手続きが10月24日に始まる。これまでは電話番号が変わるという理由から,契約する移動通信事業者の変更をためらうユーザーが多かった。しかし番号ポータビリティの導入後は,ユーザーが移行元と移行先の移動通信事業者に対して合計で約5000円の手数料を支払えば,そういった制約がなくなる。

 関係者の間では,約9381万人(2006年9月末時点)に達したユーザーのうち1割程度が,2006年中にも同制度を利用するのではないかと見られているようだ。こうした状況のなかで移動通信事業者3社は,サービスエリアの拡大やデータ通信速度の高速化,携帯電話機のラインアップ充実などを,この10月に照準を合わせて進めてきた。

 もっとも,番号ポータビリティ制度はこれからも続くのであり,携帯電話事業者にとって無線インフラの強化や端末の高機能化,低価格化など,基礎体力の強化が永遠の課題となる。ブランド力に頼るなど,一時でも隙を見せれば他事業者にユーザーが流れてしまうという,過酷な競争環境が続くのだ。こうした状況の中,競争力の源泉となる無線インフラの強化を進めるうえでは,標準化で自社に有利な結果を導くことの重要性がますます高まっている。