「NGNレディな企業システムを提供し、顧客の競争力を高める」。NECが9月に開催したメディア向けの説明会で、同社幹部が語った言葉だ。正直言って筆者の頭には、この言葉がなかなか入ってこなかった。通信業界では話題になっているNGN(次世代ネットワーク)だが、それはNTTなどが粛々と構築を進める通信インフラの話だと思っていた。SIerやユーザー企業が日々格闘している企業システムの話とどうつながるのか。“NGNレディ”な企業システムとは一体どんなものなのか…。

 もし両者が本当に密接にからんでくるのであれば、ユーザー企業はもちろん、情報システムを売り込み、構築する立場のソリューションプロバイダにとっても見逃せない動きになる。しかも、NTTは世界に先駆けて、NGNのフィールドトライアルを12月から始めるという。そこで日経ソリューションビジネスでは、ITサービス業界からみたNGNのインパクトについて、10月15日号特集「注目 NGNは宝の山だ!」にまとめた。

 取材をしてみると、NGNと企業システムをつないで新たなビジネスの機会を作ろうと、冒頭のNECに限らず多数のベンダーが、あの手この手で通信事業者と協業を進ようとしている様子が伝わってきた。富士通、日立製作所といった“NTT系ベンダー”はもちろん、日本IBMなどのITベンダーも積極的だった。NTTによれば10月初めの時点で、フィールドトライアルへの参加を表明したり検討している企業は数十社規模に上るという。

インターネットとは別の“宅地分譲地”を作るNTT

 ただ一方で、取材を続けるうちに、ITサービス業界と通信業界との微妙な距離感が浮かび上がってきたのも確かだ。

 中でも「なるほど」と思ったのは、あるSIerのトップが家作りになぞらえて語ったNGN評である。その人によればNGNは、通信事業者が新たに作り上げる「宅地分譲地」のような土台だという。大手ITベンダーは、さしずめ柱を建てたり壁を作ったりする建築業者だろう。そして、SIerやソフトウエアハウスなどのソリューションプロバイダは、屋根を作ったり壁を塗ったりする職人のような役割だ。

 そこでNTTのNGNだが、こちらはようやく地鎮祭が終わって基礎工事を始めた段階。まだまだ柱も壁もない状態だ。そうした中でNTTは「インターネットより地盤がしっかりしていて高品質。防犯も万全にします。だからみなさん、一緒にこちらの分譲地で家を建てましょう」と言ってくる。

 でも、ソリューションプロバイダがNGNの上でちゃんと儲けられる方法がなければ、良い部材を使った家造りだって難しくなる。そんな家では、現在のブロードバンドインターネットを使っているユーザーに「こっちに住みたい」と思わせることはできないのでは――。

NTTが虎の子の機能を公開、でもやり方は不親切

 では、何がソリューションプロバイダにとってビジネスの“種”になるのだろうか。取り扱う製品やサービスによって様々だろうが、NTTはソリューションプロバイダをNGNに呼び込むために、まずは二つの大きな“種”を用意する。ITproの読者の方々であればすでにご存じと思うが、NTTはフィールドトライアルで、これまで抱え込んできたネットワークの機能や情報を一部公開するのだ。

 NTTが公表しているトライアル概要から分かるのは、アプリケーションの種類によって、ネットワークの通信速度を変えられる帯域制御機能。それに加えて、回線単位で認証できるようにする仕組みも提供する計画だ。後者はセキュリティにかかわる部分のため、トライアルに参加するベンダーに対して個別に開示する方針である。

 確かに、これらの機能は様々な使い道があるだろう。例えば広告などの映像コンテンツを持つ業者が、NGNを介してユーザーにコンテンツを配信したいとする。回線レベルでユーザーを認証できるのであれば、地域別に異なる映像を流すことも簡単になる。
 
 でもせっかくの機能公開も、やり方によっては、実際にNGNを使ったシステム構築を手掛けるソリューションプロバイダにとって、使いづらいものになってしまう。現にNTTは帯域制御や認証機能を、IP電話で使われる「SIP」(セッションイニシエーションプロトコル)を使って公開する。これだと、本当にソリューションプロバイダをNGNという新たな分譲地へ呼び寄せる気があるのか、疑わしくなる。あるSIerは「電話システムを熟知したベンダーしかNGNのフル機能を使わせない、ということなのか。Webサービスのように、企業システムで標準的なインタフェースも用意してほしい」と漏らしていた。

 実はNTTがフィールドトライアルでやろうとしていることは、米国ではすでに商用化が始まっている。携帯電話事業者の米スプリント・ネクステルが2月から、携帯電話ネットワーク上にある端末の位置情報や、端末の状態を示すプレゼンス情報などを外部に公開し始めた。しかもそれはWebサービスのような格好でインタフェースを提供している。このためSIPに精通したベンダーでなくても、携帯電話を利用したサービスがすぐに提供できるようになっている。実際この仕組みを使って、トラックの運行管理サービスを提供するASP(アプリケーションサービスプロバイダ)サービスを提供する企業まで登場した。

 振り返ってNTTのNGNはどうか。繰り返しになるが、どれほど高機能なプラットフォームを用意したとしても、顧客の業務を深く理解しているソリューションプロバイダが動かなければ、ユーザーにとって魅力のあるアプリケーションは出てこない。そこが抜け落ちて、NGNが“ゴーストタウン”にならないよう、これからも注視していきたい。