8月末のau(KDDI,関連記事),9月末のソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン,関連記事)の発表を経て10月12日,トリを飾る形でNTTドコモが秋冬モデルを発表した(関連記事)。各社とも今年の秋冬商戦への力の入れようは尋常ではない。特に端末台数は,競合相手をあからさまに意識し,auが12機種,ソフトバンクモバイルが13機種,NTTドコモが14機種と,それぞれ過去最大のラインアップを用意した。明らかに,10月24日から始まる「携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)」に必勝の構えで臨むためだ

MNP開戦準備は2年前から

 携帯電話事業者がMNP開始に向けた準備を開始したのは,2004年5月のこと。MNPの導入時期や利用手続きなどについてのガイドラインが提示されたからだ。実はこの時から,携帯電話事業者各社の競争は口火を切っていたのである。NTTドコモの中村維夫社長が2006年9月の社長会見で「我々はこの2年間,MNPのためにサービスを充実させてきた」と語ったように,サービスそのものの競争も既に本格化している。

 MNP開始に向けたサービス競争には二つのポイントがある。一つは自社ユーザーの囲い込み策。もう一つは,他社のサービスにあって自社にないサービスの用意だ。前者には,長期契約者を優遇するような割引制度がある。MNPの開始に伴ってこれまで以上にユーザーの流動化が考えられることから,長期契約している自社ユーザーの囲い込みを狙ったものだ。

 後者は,例えば音楽機能で先行したau(KDDI)を追って,NTTドコモやソフトバンクモバイルが音楽機能を強化した機種を用意したり,auがNTTドコモのプッシュ型の情報配信サービス「iチャネル」に似た「EZニュースフラッシュ」を準備するなどの動きだ。この結果,各事業者のサービスは,お互いが得意技をつぶし合う様相を呈している。

MNPの周知徹底で利用意欲が減退?

 各携帯電話事業者はMNPの開始と合わせて,大量の新端末や新サービスを用意した。しかしMNP開始以後の動きは,「始まってみなければ分からない」と各事業者は異口同音に語る。

 9月から始まったMNPの事前予約キャンペーンは,思ったよりも低調のようだ。ある大手量販店の売り場担当者は9月中旬の時点で,「MNPの問い合わせは1日10件程度。まだまだこれから」と答える。NTTドコモの中村社長も「MNPは当初,静かな船出になるのではないか」と予想する。

 各調査機関が実施するMNPに関するユーザーの利用意欲のアンケートでも,2年ほど前には3割以上のユーザーがMNPの利用意欲を示していたのが,最近では1割を切る結果も珍しくなくなった。

 その理由の一つに,2年前に比べてMNPに関する詳細が周知徹底されたことがある,と筆者は考える。MNPでは電話番号は引き継げてもメール・アドレスやダウンロードしたコンテンツなどは引き継げない。こうした事実が,2年前に比べてユーザーの間に広まったことが利用意欲の低下につながっているのではないか。

 もう一つの理由として,長期割引のメリットが大きくなり,それを捨ててまで事業者を変更する理由が見つけにくくなったということもあるだろう。さらには,他社にあって自社にないサービスは,ここに来てどんどん少なくなっている。サービス競争の結果,文字通りユーザーが事業者に囲い込まれてしまっている様子もうかがえる。

もう一つの戦場,法人市場に注力する携帯電話事業者

 このように静かな幕開けを予感させる個人ユーザー市場のMNPだが,その裏で事業者各社が虎視眈々(たんたん)と狙いを定める“もう一つの戦場”が浮かび上がってきている。それが法人市場だ。

 筆者は2年前から携帯電話の法人市場について取材しているが,その時から各携帯電話事業者は法人市場への期待を口にしている。だが2年前と比べると,携帯電話事業者の法人市場へかける“本気度”がまるで違うと感じている。それもそのはず,事業者間の移行の障壁が低くなるMNPは,各携帯電話事業者にとってチャンスでもありピンチでもある。2年前と比べて,競争に対する意識が急速に高まっている。