まずはITProの読者に質問してみたい。
「あなたは,自分の会社の社長とじっくり話をしたことがありますか?」

 この問いに対して,どの程度の読者が「はい,あります」と答えるのかは分からないが,おそらく「はい」と答える人は日ごろから「頻繁」に自社の社長と会話をしているのではないだろうか。社長がかなり身近な存在である可能性が高い。

 逆に「いいえ」と答える人は,極端に言えば,これまで「一度も」社長とまともに言葉を交わしたことがないような気がする。「はい」の人と「いいえ」の人との差は極めて大きいと想像する。それほど,会社によって社長と現場の社員の距離感が違っていると思われる。

 もちろん,企業規模や自身の役職にも大きく依存する話ではあるが,「社長との距離が非常に遠い」と感じる会社には,ほかにも原因があるはずだ。

ファミマの上田社長は社長塾で現場と対話

 先日,ファミリーマートの上田準二社長が現場の若手社員を対象に開く「社長塾」に同席する機会を得た。この日の社長塾には,ファミリーマートが2005年3月から始めたブランド確立運動「らしさプロジェクト」のメンバー十数人が集まった。本社の大きな会議室で上田社長を取り囲むように社員が座り,この日は3時間半,社長塾が続いた。

 上田社長の社長塾には,決まったテーマがない。社員は普段自分で考えていることや悩んでいることを,何でも自由に社長に発言していいことになっている。それに対する上田社長の考えも聞ける。社員からの提案が,その場で採用されることもしばしばだ。

 社長塾の冒頭で上田社長は「ここで何を言っても,後でとばっちりを受けることはない。話したことが上司の耳に入って異動させられたりはしない。そんな上司がいたら,私が先に彼を異動させてやる」と釘を刺す。だから若手社員は所属や立場を気にせずに,自分の考えを自由に発言できる(詳細は,日経情報ストラテジー11月号に掲載予定)。

 上田社長は足掛け5年,社長塾を続けてきた。記者が同席したこの日はたまたま本社での社長塾だったが,通常は上田社長が全国の拠点を回り,毎年10回以上開催する。

 社長塾では,その場を和ませるため上田社長がユーモアたっぷりに受け応えする場面をよく見かけた。だが笑顔の裏で上田社長は「社員の1つひとつの発言に対して,かなり気を遣って回答している」と打ち明ける。それほど緊張感を持って,上田社長は社員と対峙している。

第2部は居酒屋で社長と激論

 ファミリーマートの社長塾は,会議室だけでは終わらない。3時間半の話し合いだけでは言い足りないとばかりに,すぐさまその足で近くの居酒屋に向かう。ここから社長塾の第2部が始まる。記者も上田社長の脇に座らせてもらい,第2部も最後まで参加した。

 とにかく社長も社員もよくしゃべる。社長に対する遠慮はほとんど感じられない。記者の存在も全くお構いなく,お酒が入った上田社長と社員の勢いある対話は2時間以上休みなく続けられた。

 居酒屋での第2部では,社員は各自1分間ずつ上田社長の前でスピーチしなければならない。ウケを狙う人もいれば,真剣に演説する人もいるが,どちらにしても,すぐさま上田社長から突っ込みが入る。こうして社長と社員の掛け合いは夜遅くまで続く。

社長が「現地現物」を実践してこそ現場改革は進む

 記者はファミリーマートの社長塾に同席しながら,ここ数年取材を続けてきた「トヨタ流」の企業改革との共通点を感じた。トヨタ流が根づく企業の必須条件は,経営者自身が現場に降りて,自分の目で見て,聞いて,判断して,行動することと言える。トヨタでいう「現地現物」を,経営者自身が実践してこそ,現場改革は軌道に乗るのだ。

 ファミリーマートの上田社長も社長塾を通して現場と向き合うことで,結果的にトヨタ流と同質の改革に取り組んでいる,と言えるだろう。そうなれば必然的に,上田社長と社員との対話は,質・量とも増えていく。

 ここで冒頭の質問に戻りたい。ファミリーマートの社員に「社長とじっくり話をしたことがあるか?」と尋ねたら,何と答えるか。おそらく多くの社員は「はい」と答えることだろう。社長塾は間違いなく,社長と社員の距離感を縮めている。

 さて,あなたの会社は,どうだろうか?