明日(9月15日),午後7時30分。日本の証券市場に新風が吹き込まれる。ネット証券のカブドットコム証券がPTS(私設取引システム)による夜間取引をスタートさせるからだ。PTSとは証券会社が電子的な株取引の場を提供することで,東証などの取引所の時間外でも株式売買を可能にするシステムである。同社に続いて,他の証券会社のPTSが同一時間に複数稼働するようになれば,取引所を含めた市場間の競争が活発化する可能性は大きい。カブドットコムは当初,約300銘柄を対象に午後7時30分から午後11時までPTSを稼働させる。

 夜間に稼働するPTSは,今回が初めてではない。マネックス証券は「マネックスナイター」の名称で2001年から運営している。ただし,売買価格は原則として当日の取引所の終値に一本化し,需給関係による価格変動はない。それに対して取引所が採用する「オークション方式」は,需給関係によって約定価格を変動させながら取引を成立させていく。マネックスでは,売買注文量が少ない夜間に取引所のようなオークション方式では売りと買いの注文が出会いにくいとの判断から,「一本値」方式を続けている。

 一方,カブドットコムのPTSが注目されるのは,東証と同様のオークション方式を採用する点にある。十分な売買注文が集まって約定が確保できれば「ミニ東証」と呼べる存在になりえる。もちろん厳密にいうと,PTSは証券業の一部として認められた業務に過ぎず,取扱高ひとつとっても取引所の1%未満に制限されている。だが,こうした制限にもかかわらず,他のネット証券各社もオークション方式のPTSに名乗りを上げている。SBIイー・トレード証券,楽天証券,SBI証券,オリックス証券,GMOインターネット証券の5社は共同で,松井証券は単独でシステムを立ち上げる予定だ。

 もちろん,オークション方式によるPTSには不安材料もある。個人投資家の動向によっては,売買注文が極端に少なかったり,異常な値動きになる可能性も否めない。システム面で見ても,東証と同様なマッチング処理が要求される。これまでのネット証券のシステムは,ごくおおざっぱに言うと,基本的に顧客からの注文を取引所に流すだけで,後は約定の結果を取引所から受け取ればよかった。それがオークション方式のPTSになると,各銘柄ごとに売りと買いの注文を価格順に並べ,同一数量のみを約定させていくという高度な処理が求められる。

 今回のカブドットコムのPTSをめぐっては,どれだけの量の注文によって常識的な価格が形成されるかという「流動性」ばかりに注目が集まっているようだ。しかし,注目すべき点はそればかりではない。規模は小さくとも,東証並みの高度な情報処理をネット証券1社のシステムがどこまで確実かつ迅速に実行できるか。その点を注意深く見守っていきたい。

 米国ではPTSに相当するシステムが台頭した結果,ニューヨーク証券取引所がその最大手を買収せざるを得なくなったという。日本では折りしも,東証がシステムを全面刷新中だ。そのビルの中にある記者クラブで,カブドットコムは深夜の記者会見を実施する予定である(記者会見の内容は9月19日に速報する予定です)。