Intersimone氏に,日本で情報系の学科に進学する学生が減っているという話を振ったところ,「米国でもコンピュータ・サイエンスやコンピュータ・エンジニアリングといった分野を専攻する学生は,かつて年に2万人ほどいたのに現在では1万5000人程度に減っている」と教えてくれた。ただし,学生が減った原因は,「ロボット工学など流行分野に学生が移ったため」(同氏)であり,理科系専攻の学生自体が減っているわけではないともいう。Intersimone氏は,ロボット工学にせよ何にせよ,「情報系でなくてもプログラミングの能力が必要,もしくは有用である分野は非常に多い」として,ジョージワシントン大学で統計学を専攻する学生がDelphiとC++で統計処理を行った例や,ミシガン州立大学の学生がDelphiの画像処理,GPSコンポーネントを利用して地図情報アプリケーションを作成した例などを挙げてくれた。

 Intersimone氏は,今後ボーランドの開発ツール部門がよりプログラマ指向になること,プログラミングする人の数を増やすことが世の中にとっても同社にとっても重要であることを繰り返し強調した。氏の考えには,「初心者に使いやすい開発環境を安価に提供する」という,かつてのTurboシリーズの理念がそのまま受け継がれている。ここ数年間,プログラマの人口を増やせないかと考えてきた記者は,大変心強く感じたものである。

 ただ残念なことに,インタビューの席上ではマイクロソフトのツール群に対して明確なアドバンテージを打ち出せるような方策は聞けなかった。ターゲットとなるプラットフォームをIntel Macや家庭用ゲーム機に広げてみたらどうか,最近流行のスクリプト言語,動的言語を扱ったらどうか,などいろいろ話を振ってみたものの,「Turbo製品群は第一弾に過ぎない,今後期待してほしい」というだけで,明確な回答は引き出せなかった。記者はTurbo Rubyでも出せば結構ヒットするのでは,とも思うのだが。

 かつてボーランド製品がマイクロソフト製品と対等に渡り合えた(少なくとも開発環境を決める際の選択肢の一つになりえた)のは,マイクロソフト製品に対して明確なアドバンテージがあったからではないだろうか。Visual Studio 2005 Express Editionが無償で配布されている現在,無償あるいは低価格というだけでは使ってもらえないだろう。

 Borland Softwareは今年2月に,IDE(統合開発環境)の売却先を探していることを発表している。Intersimone氏は今年3月の弊社インタビューで,IDEの売却について「(売却先で)新しい事業体を作って育てていくからどうか安心してほしい。もちろん私自身も移ることになる」とコメントしているが,その後,目立った発表は無い。こうした状況で将来の話を語っても,とも言えるが,ユーザーとしてはもう少し明確な将来のビジョンがほしいのである。

 ボーランドにとっての最大の資産は,忠誠心の高いユーザーからなるコミュニティであろう。彼らが「このツールいいよ」とネット上でクチコミで広めてくれたり,積極的にカスタム・コンポーネント(ソフトウエア部品)を作ってくれたりするようになれば,それなりに勝機はある。開発ツール自体についても,一部をオープンソース化して開発リソースをコミュニティに求めるなどの手法が十分考えられる。こうした点を考慮すれば,YouTubeへ広告を投稿したのもなかなかうまい手と言えそうだ。

 気がかりなのが,ボーランド・ファンの多くが,少々年寄りになりつつあることである。IDE部門の売却先も含め,今後ボーランドの開発ツールがどうなるのか見守りたい。

■変更履歴
4段落目の一部に分かりにくい表現があったため修正しました。元の文章は,「マイクロソフトが後に出荷したVisual C++と比べても,Borland C++には平面的なダイアログが標準であったWindows 3.xで,立体的な見栄えのよいダイアログを表示するライブラリ(BWCC.DLL)が付属するなどのアドバンテージがあった。」でした。[2006/09/13 17:40]