日経ソリューションプロバイダの2004年2月29日号の特集は「SIはネット上で起こる」というタイトルだった。当時はASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)が全盛で,様々なサービスが登場していた。特集は,各社が協業しサービスを統合させることで,新たなシステム化に結びつく,といった内容だった。しかし,この特集の読者からの評価はあまり良くなかった。技術的に難しい面もあり,ユーザー企業も“ネット”に対して,そこまで意識していなかったためだろう。

 そうした状況が,今では様変わりしている。ASPがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)というキーワードで呼ばれるようになり,ソリューションプロバイダに大きなビジネスチャンスが生まれていると筆者は感じている。これまでの「SI=システムインテグレーション」というビジネスモデルが,いわば「SI=サービスインテグレーション」に変革を迫られるぐらいの勢いなのだ(詳細は本誌7月30日号の特集参照)。


新たな協業モデルを作り出す

 ASPもSaaSも,システムをユーザー企業が所有せず,その機能だけをネット経由で提供する「オンデマンドサービス」という点では同じ。だがパッケージ単体の機能を提供するだけの初期のASPとは異なり,SaaSはWebサービスなどの技術でシステムが連携しやすい環境を実現している。

 そうなると,ソリューションプロバイダは自社や他社のオンデマンドサービス,ユーザー企業が持つ既存システムなどを簡単に統合できるようになる。新たな協業モデルを実現しやすくなるため,サービスの幅が大きく広がり,ユーザー企業に対する付加価値を,短期間で提供できる。

 実際,システムインテグレータのいわば代表格だったアルゴ21さえ,2005年後半から同社が業種別に提供している自社製パッケージ販売のビジネスを,将来的にネットで提供する方式にシフトする方針を打ち出している。その中核が,ユーザー企業の業種別に必要なアプリケーションの機能を統合したポータルの提供である。アルゴ21はその第1弾として,ホテル向けアプリケーションをオンデマンドで提供する新サービス「ONDEFACTO」を2006年3月から発売している。ONDEFACTOは,アルゴ21が宿泊予約や婚礼システムなどの基幹業務を担当し,ソフトブレーンが営業支援を,アットマーク・ベンチャーがイベント管理ツールをオンデマンドサービスとして提供。アルゴ21が窓口となり,顧客サポートをワンストップで販売するのが特徴だ。


BPOとの連携にも広がる

 このほか新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は,文書管理のオンデマンドサービス「nsxpres.com」を,セールスフォース・ドットコムのオンデマンド型CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)と連携させて販売している。両者の連携では,セールスフォース・ドットコムが提供するシステム間連携基盤である「AppExchange」のAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を活用している。

 NSSOLは2001年4月にnsxpres.comの提供を開始して以来,ユーザー企業のニーズ合わせて,サービスの範囲を拡大してきた。当初は,図面や文書などを電子化してネット経由で共有する「文書管理ソフトの期間貸しサービス」に過ぎなかったが,ユーザー企業の取引先に対するデータ交換・データ配信に用途を拡大してきた。今では,図面や文書を電子データとして登録する作業までNSSOLが請け負うという,BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の領域までカバーしている。NSSOLによると,nsxpres.com関連の売り上げに占めるアプリケーション利用料は3割に過ぎず,残りのおよそ7割はBPOサービスからの売り上げだという。

 こうしたサービスビジネスでは,ユーザー企業のニーズにいかに迅速に応じて機能を増やすかが,ビジネス拡大のポイントになる。それだけに必要なときに必要なだけのサービスをインテグレーションして提供することが求められていた。セールスフォース・ドットコムのような他社のオンデマンド・サービスとの連携で,それが実現可能になったのである。


協業相手は世界中にいる

 大手パッケージベンダーも動き出した。米マイクロソフトは7月11日,オンデマンド型のCRMサービスである「Microsoft Dynamics CRM Live」を2007年第2四半期から提供すると発表した。2005年11月に発表した「Windows Live」「Office Live」に続くオンデマンド型サービスの第3弾になる。国内でもSAPジャパンが今年5月,同社のCRM製品をオンデマンド型で提供する「SAP CRM On-Demand」の提供を開始している。

 今後,BPOも含めて様々なサービスが登場すれば,ソリューションプロバイダにとっては協業相手が広がるだろうし,その相手は国内だけにとどまらないはずだ。米国はもちろん,インドや中国など協業相手は世界中にいる。しかも従来のASPサービスのように中堅・中小企業だけが相手だけでない。SaaSのような新しいサービス形態には大手ユーザーも注目しており,一部では既に導入が始まっている。こうした「システムインテグレーション」から「サービスインテグレーション」への流れに乗り遅れると,新しい時代のソリューションプロバイダへの転換は難しくなるのではないだろうか。