横浜市のトップページを抜粋した画面。トップページ下部に12枠のバナー広告が掲載されている。1枠の月額掲載料は7万円
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 みなさんは自分が住んでいる市区町村のWebサイトをご覧になったことがあるだろうか。各種行政手続きの紹介はもちろんのこと,ゴミの収集情報から夜間や休日に利用できる病院の案内まで,最近では幅広い情報が各自治体のWebサイトに掲載されている。中には公共施設の予約や図書館の蔵書検索ができるサイトもある。

 自治体のWebサイトでここ数年のトレンドとなっているのが,Webサイトへの広告掲載だ。写真は横浜市のWebサイトのトップページを抜粋したものだ。トップページの下部に広告掲載用のスペースを設けており,現在12枠のバナー広告を掲載している。1枠の広告掲載料は7万円。横浜市では,トップページ以外に「くらしのインデックス」や「交通案内」「ごみと資源の分け方・出し方」といったページにも,バナー広告を掲載している。2005年度のWebサイトでの広告収入実績は2300万円だった。


目的は悪化する財政の改善

 日経パソコンが自治体に対して実施したアンケート調査では,回答があった1613自治体のうち,6.6%の104自治体が2005年にWebサイトに広告を掲載していた。広告の形式はほとんどがバナー広告だ。掲載場所はトップページが中心で,前述の横浜市のようにほかのページにまで広告スペースを広げる例はまれだ。

 自治体がWebサイトへの広告掲載を始めたのは3,4年前にさかのぼる。厳しい財政状況の中で,情報やサービスを提供するだけでなく,Webサイトを財源確保の手段として活用しようということが主な目的だ。

 Webサイトに広告を掲載していた104自治体の2005年度の収入実績は,平均で143万円だった。最も収入が多かったのは横浜市の2300万円で,続いて神戸市の1000万円となる。

 バナー広告のサイズは60×120~150ドットが一般的で,1枠の掲載料は月額2000円から7万円までと多岐に渡る。相場は月に1万~2万円といったところだ。

 104自治体のバナー広告の掲載状況を見てみると,独自の工夫を凝らしたサイトがあって面白い。例えば最も多かった工夫は,長期契約の際の割り引きサービスだ。通常は1ヵ月単位からがほとんどだが,半年~1年というまとまった期間で契約すると,1ヵ月分や1~2割の割り引きが受けられる。ほかに面白い工夫としては,1ピクセル1~2.5円で設定し,バナー広告の大きさに応じて広告掲載料を変える愛媛県四国中央市や,バナー広告ではなく文字によるテキスト広告を採用している佐賀市の例がある。


基準やチェックに課題あり

 ポータルサイトなどと比べればアクセス数ではかなわないが,自治体サイトの媒体価値は高い。事実,トップページについては広告掲載枠がまったく空というのはほとんどなく,むしろ8割~10割の掲載率を誇るサイトが多かった。広告を出す側にとっては,自治体サイトに自社の広告が載っていること自体が信頼感の向上につながるため,単純な広告効果以上の価値を見出していると考えられる。

 一方で,公的な自治体のWebサイトに広告を掲載することは相応しくないのではないか,といった議論もある。前述の信頼感の向上にしても,地域住民から見れば自治体が特定の企業にお墨付きを与えたと見えなくもない。この問題には自治体担当者も頭を痛めている。

 実は,これと同じ問題は昭和30年ごろにもあった。自治体が発行している広報誌に広告を掲載してもよいのかという問題だ。日本広報協会の渡邊明彦氏は「広報誌の広告は,昭和38年8月に各自治体の判断で掲載できるという判例が出た。Webサイトの場合も基本的にはこの判断を適用できるだろう」と述べている。

 また,広告を掲載した企業が社会的問題を起こした場合,掲載を許可した自治体側にも責任があるのではないかといった問題もある。これについても,自治体側はあくまでも場所を貸しただけであって,責任は及ばないといった見解が一般的だ。

 いくつかの自治体担当者に広告掲載に対する住民の反応を尋ねたところ,いずれもまだ反対の声や批判を受けたことはないという。最近では,Webサイト上の広告掲載に違和感を覚える住民は少ないようだ。

 上記に加えて,バナー広告をクリックしたリンク先のWebページをいかにチェックするかという,Webサイトならではの問題もある。掲載内容が変わらない広報誌の広告とは違い,バナー広告のリンク先のWebページは,内容を変更することが可能だ。ある日突然,表現が変わっていたり,公序良俗に反するサイトへのリンクが加わったりする可能性がある。ほかにも広告掲載の基準作りに苦心する自治体担当者も多い。

 上記のような問題を抱えながらも,自治体の厳しい財政事情を考慮すれば,基準や節度をしっかり持ちながら運営するという条件のもと,Webサイトへ広告を掲載していくことは必然の流れといえる。現にWebサイトにとどまらず,庁舎の外壁に広告を掲載したり,公共施設の命名権(ネーミングライツ)を売却したりして,広告関連収入の確保を目指す自治体は増えている。

 財政コストの増大によって行政サービスの質を落としてしまうくらいなら,いまある資源を上手に活用して少しでもサービスの維持を図るほうが懸命だ。住民にとってもより住みやすい街で暮らしたいと願うのは自然だ。今後は自治体にも商業的感覚が求められるようになることは間違いない。


広告掲載には地域振興の側面も

 一方,自治体サイトでの広告掲載には,財源確保に加えて地域振興といった側面もある。先に紹介した割り引きサービスでも,長期契約以外に地元の企業や団体であれば通常よりも安い価格で広告を掲載できるよう,優遇サービスを実施している自治体もある。大規模な市ではなく,いくつかの町でこのような例が多く見られた。

 横浜市でも,市のトップページは月額7万円だが,各区のトップページは月額4000円~6000円程度と安めに設定している。もちろん両者のアクセス数は大きく異なる。それでも料金を小額に設定したことにより,「数千円なら掲載料を出してもいい」という地域の商店がたくさん出たという。横浜市全体のトップページであれば住民以外も見る場合があるが,各区のページを訪れるのは,実際その地域に住む住民がほとんどだ。身近な商店や病院の情報があれば,住民にとってもその情報を参考にする可能性は高いので,広告効果も大きくなる。

 ユニークな例では,神奈川県大和市が,バナー広告の掲載料を現金ではなく「ラブ」と呼ぶ電子地域通貨で支払うようにしている。大和市の企画部情報政策課情報政策担当チーフの大谷剛氏によると「今後は地域のイベントや清掃活動を継続して手伝った企業や団体に対して,一定期間のバナー広告掲載を認めるといった仕組みも検討している」という。

 始まって間もない自治体サイトへの広告掲載は,必ずしも課題のすべてを解消し切れていない。ただ,それでも行政サービスの維持向上に果たす役割や,地域振興の効果もあることを考えれば,前向きに捉えていきたい事業だ。昭和28年に始まったと言われる広報誌での広告掲載が,さまざまな議論を経ながら今日まで続いてきたことを考えると,自治体サイトへの広告掲載も,今後さまざまな試行錯誤を繰り返す中で,いくつかの模範となるモデルが登場してくるだろう。

 なお,日経パソコン7月24日号の特集2「e都市ランキング 2006」では,2005年度の自治体サイトへの広告掲載の状況や収入実績と,2006年度の掲載予定や想定収入などのデータをまとめている。ほかにもセキュリティや防犯,電子申請など自治体の情報化進展度を多角的に検証している。また,「ITpro 電子行政」のスペシャルレポートでは,アンケートに回答を寄せた全1613自治体の得点と順位を紹介している。ご興味があれば,ぜひ参照してみてほしい。