まだ半年残っているとはいえ,記者が思うに2006年のインターネット業界最大のトピックは,米国の動画投稿・共有サービス「YouTube」で決まりだろう。ITproでも何度か報じてきたが,その人気は極めて高い。特に,日本人ユーザーの間では“異常”と表現しても良いほど話題になっている。

 最近では国内でも「国産YouTube」と呼べるサービスが続々と登場してきた。慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構が5月に公開した「VOLUME ONE」や,アスクドットジェーピーが6月に開始した「Askビデオ」,サイバーエージェントが7月に始めた動画投稿対応の「AmebaVision」などだ。サイバーエージェントの一谷幸一AmebaVisionグループ・マネージャーは「2007年9月までには100万ファイルを超える動画の投稿が期待できる」と自信をのぞかせる。動画投稿・共有サービスの人気は今後もさらに加速しそうだ。

 一方,デジタル家電の世界に眼を向けると「DLNA」(Digital Living Network Alliance)が話題である。DLNAはデジタル家電やパソコン,携帯電話などをネットワーク経由で連携させるための規格だ。

 ACCESSの鎌田富久副社長は「JiniやHAViなどこれまでの(デジタル家電連携)規格と異なり,DLNAは成功するだろう」と予測する。その理由は,家庭ではFTTH(Fiber To The Home)サービスや無線LAN,屋外では公衆無線LANやHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)など,ブロードバンド回線を当たり前のように使える環境が整ってきたからだ。

「YouTube携帯」「YouTube家電」に期待


YouTubeで人気の動画をiPodに取り込んで電車の中で見る---一部のユーザーにはこのような視聴スタイルが広まっている
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 そこで記者が期待したいのは,インターネットの動画投稿・共有サービスと携帯電話,デジタル家電などとの組み合わせである。「YouTube携帯」や「YouTube家電」と言える製品の登場だ。

 YouTubeなどは携帯電話から動画を投稿できる機能を提供済みだ。であれば,デジタルカメラやビデオカメラからもボタン操作一つでYouTubeに投稿できたり,逆に,携帯電話やデジタルカメラでYouTubeの動画を簡単に視聴できる機能もあり得るだろう。YouTubeの人気の高さを考えれば,「もっと簡単にYouTubeに投稿したい」「どこにいてもYouTubeを楽しみたい」と思っているユーザーは多いはずだ。

 技術的にも実現は容易だろう。DLNAは内部でHTTPやXMLといったインターネットの技術を使う。DLNA対応機器ならインターネットのサービスとの連携はそれほど難しくない。

 既にYouTubeから動画をダウンロードし,ファイル形式を変換して,「ビデオiPod」や「PSP」に動画を取り込んでいるユーザーもいる。Webブラウザ「Firefox」にはYouTubeの動画を簡単にダウンロードするための拡張機能「VideoDownloader」もある。YouTubeで見つけた気に入った動画を通勤時間の電車の中で楽しむといったスタイルが,一部のユーザーの間では確立されているのだ(写真)。

 YouTubeなどの動画投稿・共有サービスではユーザーによる著作権侵害行為が多発しており,深刻な問題になっている。確かにこれは解決されるべき重大な課題だ。しかし,かといってあまりこの点にばかりこだわり,斬新な機能の搭載をためらうと,大きなビジネス・チャンスを逃しかねない。MP3ファイルへの対応に躊躇(ちゅうちょ)したため,日本メーカーが携帯音楽プレーヤのシェアを「iPod」に奪われた轍(てつ)を踏んではならない。

 最後に,ソフトバンクの孫正義社長に提案したい。ボーダフォンを買収したソフトバンクは「iPod携帯」を市場投入するため,米アップルコンピュータと交渉中だと言われる。もちろん,iPod携帯も良いのだが,ウォークマン携帯が発売されている今となってはいささか驚きに欠ける。やはりここは,YouTubeの視聴と動画投稿を簡単に行えるYouTube携帯の開発が,ソフトバンクらしい大胆な戦略なのではないだろうか。