視聴者はNHKにもっと高い受信料を払っても構わないと考えている−−。

 NHKが経営改革の一環として立ち上げた第三者組織「NHK“約束”評価委員会」は2006年6月27日,報告書を公表した。その中で,委員会が無作為に選んだ視聴者に「現在のNHKに対していくらまでなら支払ってもよいか」を聞いたところ,地上波放送は月額1780円,衛星放送は月額1245円という興味深い結果が出た。

 実際の受信料は地上波放送が月額1395円。この地上波放送の受信料に月額945円を加えると衛星放送を含めた受信料になる。英国の公共放送局であるBBCを評価する際にも用いられる調査手法だが,今回日本の調査では視聴者が現行の受信料よりも高い価値をNHKのサービスに見いだしていることが明らかになった。


「娯楽の民放」に対するアンチテーゼ

 NHKの価値を高めているのは何か。民放に対するバランサーの役割を担うことで,NHKは自らの存在価値を認めてもらっている。委員会の調査結果を総合すると,そのような仮説に行き着く。

 委員会が「視聴者の考える公共放送の価値」を調べたところでは,「災害に関する情報をいち早く正確に報道すること」という回答が最も多く,「政治,経済や犯罪などに関する情報をいち早く正確に報道すること」という回答が続いた。現にNHKは総合放送の5割の時間を報道番組に充てており,民放の2割を大きく引き離している。

 逆に同じ質問で一番少なかった回答は,「バラエティー,アニメなど娯楽性が高く人気のある分野の番組を提供すること」である。こうした視聴者のニーズに応えるように,NHKが総合放送で娯楽番組に充てている時間は約15%であり,民放の4割よりも比率を大幅に抑制している。NHKは民放があまり放送しないジャンルの番組に注力することで,その存在感を高めているという側面が浮かび上がる。


気付けば高齢ファンばかり

 さらに報告書によると,世代別に見たNHKの視聴時間は20歳代と30歳代の男女が1日当たり11~27分にすぎなかった。これに対して60歳代の男女は1時間46分~47分にも及ぶ。70歳以上になる2時間を超える。NHKの視聴者が高齢層に偏っていることが分かる。民放が広告放送の主なターゲットとしているのが20~35歳である。この年齢層から外れた世代をNHKが吸収しているという図式がある。

 しかし「NHK“約束”評価委員会」は,この調査結果を必ずしも評価していない。委員会は経営改革の指標となるように,様々な項目を設定して5段階評価を下している。そのなかでも,視聴者の年齢層に偏りがあるなどとして,「NHKの番組の視聴時間・接触率」という項目では「2」という厳しい評価を下した。同じ理由で,「NHKの番組への満足度」を「3」にとどめている。

 NHKは自らの存在価値を維持しつつも,年齢層の偏りを是正できるのか。委員会はNHKに難しい対応を求めている。