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記者の眼

やはり危機に瀕していたIT業界の「モラル」

玉置 亮太=日経コンピュータ 2006/07/11 日経コンピュータ

「自分の経験上,モラル(責任感や倫理観)を維持したくてもできない時期があった。過酷な作業の中で,本来必須の作業すらこなせない。それが原因で問題が発生して非難されたとき,もう自分が悪いとは思わなかった」

 日経コンピュータが5月30日から6月7日にかけて実施した,IT業界のモラルに関するアンケートに寄せられた自由意見の一つである。ソフトハウスに勤務するこの30代のエンジニアは,「後から結果を見て非難するだけなら,誰でもできる」と心情を訴えた。

 本誌は,5月30日に公開した記者の眼「危機に瀕するIT業界の『モラル』」の中で,Webによる調査への協力を呼びかけた。短期間にもかかわらず,785人の方にご回答いただいた。この場を借りて御礼を申し上げたい。

 記者がとりわけ強烈な印象を受けたのは,回答者が寄せた自由意見である。こうした調査に回答する人は,元から問題意識が高いのだろう。それを差し引いても,回答者の自由意見は過酷な仕事の状況,現場の危機感,そして強すぎる現場へのプレッシャーが,ITエンジニアのモラルを危機に追い込んでいる実態を,生々しく物語っていた。

 調査結果の詳細は,日経コンピュータ7月10日号の特集「問われるIT業界の『品格』」をご覧いただくとして,ここでは自由意見を中心に,今一度,IT業界のモラルの現状を見ていきたい。


7割弱がモラルの欠如を実感

 調査では,まず「3~5年前と比べてモラルが欠如していると感じるか」を尋ねた。すると「強く感じる」とした回答者が24.3%,「やや感じる」が42.2%となり,程度の差はあるものの,全体の7割弱が何らかの形でモラルの欠如を実感していることが分かった。回答者の立場(ベンダーかユーザーか)や所属企業/組織の従業員規模などが違っても,この傾向に偏りはなかった。

 この数字だけをもって,必ずしも「モラルの欠如が深刻な状態にある」とは言い切れないかもしれない。だが,回答者が寄せた自由意見には,モラルの欠如を指摘する声が目立っていた。

「ITエンジニアのプロ意識が,以前に比べて低下していると思う。ITエンジニアには特に資格などが必要なく,誰でもなることができるからだろうか」(ベンダー勤務,30代)

「ユーザー,ベンダーを問わず,最近のIT技術者はどこかおかしい。“常識ある大人”がいなくなった。互いの間違いや指摘を,双方とも理解できなくなっている。ベンダーは単に利益を追い,ユーザーはコスト削減をうたうばかりで,双方とも自己主張しかしてしない。何のためのシステムなのか,どんな利便性を提供するシステムなのかの視点がユーザー,ベンダーともに欠けている。IT業界に生きる一人として,非常に嘆かわしい」(インテグレータ勤務,30代)

 マンションの耐震強度偽装に代表されるように,最近になって職業人としてのモラルに欠ける事件が世間を騒がせている。こうした世相を反映してか,日本全体のモラル欠如を指摘する声も多かった。

「最近の建築偽装ではないが,この業界もソフトを納めたもの勝ちになっている。ユーザーでも楽だからといって,すべてをお任せにしてしまう者もいる。双方ぬるくなって仕事をしている以上,良いものはできない」(ユーザー勤務,40代)

「IT業界に限らず,近年,モラルを尊ぶ姿勢が薄れてきていると強く感じる。IT業界はとりわけ他の業界よりも若い人の割合が高く,他の業界よりも世相が強く反映されやすいと思われる。IT業界で今おこっている現象の根は,実はかなり深いものだと考える」(ユーザー勤務,40代)


ユーザーからのプレッシャーが現場を追い詰める

 モラルの欠如が発生しているとすれば,その原因は何なのか。自由意見では,ユーザーからの過剰な価格引き下げの圧力や短納期化,人手不足といった過酷な仕事状況が,現場を追い詰めていると訴える声が目立った。

「あまりに価格競争が激しく,ベンダー側は人件費を削ってまで受注するという負のスパイラルが発生していると感じる。これでは,教育をする費用や時間を取ることができない。ユーザー側も発注時に『どれだけ値引きするか』だけで決めるのではなく,全体の費用を考慮し,費用を支払うべきである。そうしないと,お互いにしっぺ返しがくるだろう」(ソフトハウス勤務,30代)

「ある製造業の顧客に向けて仕事をしているが,作業の生産性が毎年向上する前提で契約がなされてしまう。製造業では機械設備の性能が向上すれば生産性も飛躍的に向上するかもしれないが,ソフトウエア開発においては難しい。なのにその前提で予算が削減され,それに合わせて個人の作業量がどんどん増える。これでモラルを保てるほうが不思議だ」(インテグレータ勤務,30代)

 度を超えた要求がなされる現状に対して,ユーザー側のモラル欠如や,情報システム部門のレベル低下を問題視する意見もあった。

「詳細設計書を客先に提出し,検収していただいたにもかかわらず,実装段階で追加仕様が発生することが多々ある。ユーザー企業のモラルは問われないのだろうか?(中略)仕様書の改版に疲弊した現場では,テストが軽視されるという悪循環が見られる」(インテグレータ勤務,30代)

「システム開発の案件では,顧客企業側に問題があるケースも少なくない。実際の開発を始めてからの仕様変更などを,当たり前のように言ってくる。顧客企業側のモラルも問題だと思う。レベルの低い顧客とばかり付き合っていれば,レベルの低いシステム会社が育つのは,仕方がない気がする」(インテグレータ勤務,30代)

 当然ながら,ベンダー側にも反省すべき点はある。多くの回答者が指摘したのが,人材育成やプロジェクトへの人員配置に関する,ベンダーの姿勢である。

「労働基準法に明らかに違反している労働条件,明らかな偽装派遣や人身売買とも思える強制的な客先への出向。逃れるためには会社を辞めるしかないが,辞めようにも辞めさせてもらえない。教育を全くせずに,OJTと称して現場に放り込み,人間を使い捨てる」(インテグレータ勤務,30代)

「人手不足から,スキルが多少低くても雇い入れ,『教育しろ』という。教育しながら,増えていく仕事をこなしているのに,『本来の業務もできて当然』と言われる。かたや,マイペースでのんびりやっている人間には仕事を振らず,挙句の果ては1日ネットサーフィンしている人間にも給料が支払われる。モチベーションが高い人間も,いつしか低くなっていくのは当然だろう」(ソフトハウス勤務,30代)


業界構造にかかわる根深い問題が横たわる

 いったい,IT業界がモラルを取り戻すには何が必要なのか。自由意見で目立ったのは,発注者であるユーザー企業が,きちんとしたRFP(提案依頼書)を作るべき,というものだ。

「ユーザー企業のRFP提示を必須とするだけで,かなりモラルにまつわる問題は改善されるのでは? RFPを基にベンダーが見積もりを出せば,そもそも無理かどうかをユーザー企業は理解できるはず。RFPを書くことで,最低限の知識をユーザー企業が持つことにもつながる。言った言わないもなくなる。契約範囲も明確になる。いいことずくめだ」(情報サービス業勤務,20代)

 もちろんユーザー側がRFPを書くだけでは不十分。RFPを満たす提案をベンダーが出して初めて,プロジェクトは動き出すからだ。

「ベンダーとユーザーの双方で,システムの価値を共有することが大切。そのためにはユーザーからRFP(仕様はもちろん,思想や求める成果が明記されたもの),ベンダーからは基本仕様書(RFPに記載された成果をシステムで実現するための概略が記載されたもの)を持ち寄って合意するプロセスが必要になる。このための時間は省略できない」(ベンダー,30代)

 RFPや仕様書をきちんと作成することは,モラル問題解決に向かう有効な手だての一つではあるが,当然ながらこれだけで万事OKとはならない。実際,モラル欠如を引き起こす問題は切実で,しかも複雑だ。

 ITベンダー側では,「多段階の下請け構造」や,要員のスキルを無視した「人月単価による見積もり」など,業界構造にかかわる根深い問題が横たわっている。これらに,深刻化する人手不足や,日本版SOX法(企業改革法)に代表される法規制への対応,成果主義による現場のモチベーションへの悪影響など,最近の問題がからんでくる。ユーザー側にしても,RFPを満足に作らないことに象徴されるように,情報システム部門の弱体化が依然として進んでいる。

 これらの問題を一挙に解決する妙手や奇策はないのが実情だろう。それを承知で,特集の取材過程で何人もが指摘した点を,最後に紹介したい。それはITエンジニア自身が働く喜びを感じることのできる環境の重要さである。

 ITpro Watcherでも連載を持つ戸並隆氏は,「お客さんから『ありがとう』の一言があれば,それだけでSEは頑張ることができる」と話す。ところが「下請けのSEには,お客さんと直接やり取りすることがない。それでいて仕事は単調なコーディング作業で,自分がシステム開発にどう貢献しているかも分からない。これに加えて仕事が過酷となれば,モラルを保てるはずがない」(戸並氏)。

 エンジニアの「やらされ感」を払拭するには,「報酬で報いることももちろん大切だが,それだけでうまくいくとは限らない。個々のエンジニアに,自分は役に立っていると実感させることが必要だ」(味の素ゼネラルフーヅの井上博志 経営情報企画部 情報技術グループ統括マネージャー)。

 ヤマト運輸の情報システム課長からグループ企業ヤマトリースの社長に転じた小佐野豪績(ひでのり)社長は,ヤマト運輸の基幹システム開発プロジェクトの現場に頻繁に顔を出し,システムの意義を説いて回ったという。チームはヤマト運輸本体の情報システム部門とシステム子会社,そして2次請けと3次請けの混成である。「君たちの仕事によって,ウチは同業他社にこう差をつけるんだと,開発現場を歩き回って,誰彼かまわず話した。とにかくプロジェクトが大過なく完了したのも,協力会社のエンジニアがよい仕事をしてくれたからだと思っている」(小佐野社長)。

 IT業界にモラルを取り戻すには,業界構造の改革はもちろん,ITエンジニア自身がやりがいをもって仕事のできる環境が不可欠。「使う人の利便は確かに大事だが,作る人の幸福が,あまりにもないがしろにされている」(インテグレータ勤務,20代)。こうした現状をいかに変えていくかも,またモラル問題解決の鍵を握っていると言えるだろう。

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