情報漏えい対策の有力解として,シン・クライアントが脚光を浴びている。「日経コミュニケーション」の6月1日号でユーザー企業30社に取材したところ,半数超の企業が高い関心を示していることが分かった。クライアント端末にハード・ディスクを搭載せずファイルを持たせない使い方ができ,それが情報漏えい防止に一役買うからだ。そこで7月1日号で特集することにして取材を進めると,インテグレータも「昨年度は情報漏えい対策としての引き合いが多かった」(ネクストコム)という。

期待はTCO削減からセキュリティに移り,今度は両立へ

 当初シン・クライアントは,管理の手間とコストの削減につながる点で注目された。各ユーザーにゆだねていたアプリケーションのパッチ適用などの作業を,管理者がサーバー側で一括してできるためである。それがここ1~2年,寄せられる期待は,クライアント側にデータを置かない情報漏えい対策にシフト。だが最近は,情報漏えい対策に加えてクライアントの運用管理面が再びクローズアップされ出している。運用管理がかなり煩雑な作業となっていることの表れだろう。

 今後に目を向けると,通信事業者などがシン・クライアントをサービスとして提供するケースが増えていきそうだ。KDDIはサービス提供を検討中の一社。企業が持つ情報は通信事業者のネットワーク上に集めてどこからでも利用できるようにしておき,併せてアプリケーションもネットワーク側で提供すれば良いというのがKDDIのサービスに対する考えである。さらにクライアント側からデータが漏えいしないことが必須となると,「法人ならばシン・クライアントしかないと思う」(同社)。

 NTTコミュニケーションズは5月,シン・クライアントのパッケージ・サービスを提供する意向を明らかにしている。米サン・マイクロシステムズのシン・クライアント端末「Sun Ray」のレンタル,サーバーのホスティング,Microsoft Officeなどのアプリケーション提供,ファイルを置くストレージ,クライアント端末とサーバーを結ぶ閉域ネットワークなどをひとまとめにした料金体系を打ち出し,今夏にもサービスを始めるという。

セキュアなクライアント・パソコンを“お任せ”で

 こうしたサービスが普及すると,アプリケーションを含むクライアント・パソコンの環境自体がサービス事業者から提供され,そのメンテナンスも任せられる。またシン・クライアント端末は画面表示だけで情報を持たないため,情報漏えいのリスクを小さくできる。キオスク端末のような共用の環境で作業することも,セキュリティ面で今ほどためらいを感じずに済むようになるだろう。

 こうした利用環境の検証も進んでいる。サン・マイクロシステムズと伊藤忠テクノサイエンス(CTC),NTTコミュニケーションズ,コクヨの4社が提携。サンとCTCの社員が,コクヨのレンタル・オフィスに設置した共用のSun Ray端末にICカードでログオン。NTTコミュニケーションズがホスティングしているSun Rayのサーバーを介してそれぞれのイントラネットにアクセスするという内容だ。

この動きは企業から家庭にも波及?

 だが取材を進め情報がある程度集まってきた時点で,はたと気付いた。企業だけではなく家庭でも,アプリケーションの更新に手間をかけている。1家庭あたりのパソコンの台数は今後さらに増えるはず。そうなると,家族で最もパソコンに詳しい人が全員分のパソコンの面倒を見ることは,さらに労を要する作業となっていく。大事な情報が入ったノート・パソコンを紛失するような事態も避けたい。つまりクライアント側にデータを持たないシン・クライアントと,その運用を請け負ってくれるサービスは家庭でも役立つのではないか。

 そう考えて,この仮説を急きょサン・マイクロシステムズにぶつけてみた。すると「個人向けにシン・クライアントを提供するサービスは将来性がある,という話は社内で出ている。通信網を持つサービス事業者であれば提供は難しくないはず」との答えが返ってきた。サービス事業者がシン・クライアント端末をユーザーに配布。それをネットワークにつないでもらえば,あとはパソコンのサポートの一切を引き受ける。ユーザーは運用管理の手間から解放され,情報を紛失するリスクも減らせる。

 厳しくなるセキュリティ対策と,その対応も含めて煩雑になるクライアント・パソコンの運用管理。「オフィスや家庭には画面(シン・クライアント端末)と線(アクセス回線)だけ残し,あとは一切合財預ける」という解消策はアリかもしれない。