「日経ソリューションビジネス」の6月15日号で,毎年恒例の「CIOの直言」という特集を書いた。特集中でCIO(最高情報責任者)が直言する相手は,情報システム部門でもなく,経営者でもなく,IT業界である。

 「日経ソリューションビジネス」のターゲット読者は,IT業界の供給者側,つまり売り手サイドである。もう少し説明すると「情報・通信業界で,法人向けの営業に携わる方々」である。ITサービス企業(弊誌では「ソリューションプロバイダ」と呼んでいる)の営業職やコンサルタント,さらにユーザー企業への情報提供や提案などにかかわるエンジニア,あるいは経営層などもターゲット読者になるだろう。

 長くなったが,そんなわけで今年も「CIOの直言」特集を書いた。この特集は今年で4回目になるが,マンネリになるかというとそうでもなく,毎年それなりに違う形で需要側と供給側のギャップが見えてくる。今年の特集で見えたギャップを一言で表現するなら,「ソリューション」という言葉へのユーザー側の不信感である。


「願望」を喧伝しているに過ぎないのでは

 「顧客の問題解決を目標とする」という,ITサービス企業のソリューション指向自体に問題があるわけではない。今回の特集でCIOの批判が集中したのは,ITサービス企業(紛らわしいので「ソリューションプロバイダ」という呼び名はここでは使わないでおく)各社が「ソリューション」として提案するものの中身が,余りにも不明瞭ということに対してである。

 ローソンの長谷川進常務執行役員CIOは,「ソリューションプロバイダ」という言葉に強い違和感を覚えている。「顧客企業の問題解決を商売にしている会社は,昔からたくさんある。金の問題は銀行,家の問題は不動産屋や建築会社というように。それをわざわざ『私たちはソリューションプロバイダです』,などと名乗るのはIT業界だけ」。

 長谷川CIOは,ITサービス企業が「ソリューションプロバイダ」と名乗る理由を,「今はできていないがそうなりたいという願望があるから,わざわざそういう言葉を掲げているのではないか」と推測する。要は,願望を喧伝しているに過ぎないというのである。

 ITサービス企業各社が掲げるソリューション商材,ソリューションメニューの多くについても同じ批判がある。ここでもやはり,「確実にできること」をうたうのではなく「できるかも知れないこと」をうたっているに過ぎないというのだ。「今まで,(ITサービス企業からの)売り込みを受けて色々と検討してみたが,残念ながら役に立った試しがない。何ができて,何ができないかを,最初からはっきりさせてほしい」(丸井の佐藤元彦取締役グループ経営企画部長)。

 「願望」を看板に掲げ続けた結果,ユーザー企業はITサービス企業のソリューション提案を見ても,「どうせこんなにうまく行くわけがない」と割り引いて考えるのが,当たり前になってしまった。


この機にソリューションネタの洗い出しを

 だが一方で,ユーザー企業は今,ITのプロに頼みたいことを山のように抱えている。情報漏えい対策や内部統制など,時限付きのプロジェクトが次々と,従来からの業務に上乗せされる一方で,そのための要員を増やすことができるユーザー企業はほとんどないからだ。

 特集では,80社近いユーザー企業のCIOの方々に,アンケート調査や対面インタビューにお付き合い頂いた。これだけたくさんの皆さんのご協力が得られたのは,ユーザー企業の側でも「この時代,ITのプロに何をどこまで任せるのがベストなのだろうか」という問題の解を追い求めているからだと思う。

 こうしたユーザー企業からの問題提起に応えて信頼を回復するためには,ITサービス企業の側も「ITのプロとして自分たちが確実に解決できる問題は何か」ということを,もう一度洗い出す必要があると思う。幸い今は,ユーザー企業の注目がセキュリティやシステム運用など,インフラ技術に集まっており,ここはまさにITサービス企業が技術力でアピールすべき領域である。「ソリューションネタの洗い出しと再構築」に絶好の機会ではないだろうか。